君の寝坊
いまが一番楽しければいいとか
そんな先のこと考えられないとか
半年先の未来ならまだしも
来週のことさえを話すのを嫌がった君と
いまは、明日の話が出来る
思うところはあるかもしれないけど
随分、優しくなったなあなんて方が束の間
仕事から帰ったあと、一緒に飲むまでが至福だった
僕の膝の上ですっかり寝てしまった君は
膝を揺り動かしても腹の辺りを軽く叩いても
一向に起きる気配がない
起きてもすぐ、膝の上に頭が帰ってくる
諦めて、目の前のテレビをぼーっと眺めた
それにも飽きて
ソファの肘掛けに文字通り肘を掛けてみるけど
眠気だけで眠れそうにはない
僕に座ったまま眠れる特殊技能でもあれば楽なのに
そんなものは会得していなかった
ようやく起きたのが午前4時
皿と酒を片付ける僕はひどく不機嫌だった
部屋に戻って布団に入りながら
僕は、早く寝ろと言ったのに
君は、押し切って風呂に入った
睡眠時間の確保の方が大切で
この時間から寝てすっぱり起きてきた試しがない
君が布団に入る頃には、午前5時を回っていた
「僕、弁当作るから早く起きるんだけど」
「なんですか、嫌味ですか」
「違うよ…。
あと、僕は寝てない」
呆れと眠気で上手く言葉が出ない
「無意識の間のことなんて、知りません。
私は寝てると思ってました」
「だから、寝てないよ…」
「なら、弁当は無理しなくていいです」
カチンときた
人に頼んでおいて、なんて言い草だ
言い返す気にもなれなかった
どんなにひどい喧嘩をしても
僕が約束だけは守ることを、君は良く知っている
この期に及んで甘やかしてしまう僕は
大人としては、きっと優しくはない
苛々もそこそこに
ふたりで、いつも通り横並びに眠った
君には背を向けてやった
それくらいの小さな抵抗で何が伝わるわけでもないのに
カーテンを閉めたままでも、感覚的に朝が分かる
アラームを止めて起きると、君も起きた
「昨日は、ごめんね。
大事にできてなくて、ごめんなさい」
こんなに可愛く言われてしまうと
これ以上、叱るわけにもいかなかった
「キス」
そう言われて、特に断る理由もなくキスする
満面の微笑みで、枕に戻っていく
君のお弁当を作って戻っても、ギリギリまで寝ているだろう
なんて予測していたのに
予想の150%オーバーで寝坊されて
一緒に出ると言ったのに、置いて行かれる悲劇を
僕には予想出来なかった。
—君の寝坊—
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