Poem

時計の針が進む度に

戻ればいいと思った。


待ってくれないなら

あんな約束、しなければよかった


これは私を失くした物語り


約束 - sending -

本作は、DREAMERS ART〜時〜出展作品のキャプションとして書き下ろした詩です。


ART・PORTE企画展 DREAMERS ART 〜時〜 time

絵画・イラスト・写真等、表現ジャンルを問わず、「時」にまつわる作品を展示しています。

・会期 2/18 tue.-2/23 sun.11:00-19:00

    最終日のみ、17時まで。

・会場

 Gallery POLANCCA

 鹿児島県鹿児島市名山町8−8 Little Bird 3F&4F


2Fの喫茶にて、珈琲・お菓子など頂けます。

鑑賞のお供にどうぞ。


外に出ようと誘われた

寒いのは苦手だから、冬籠りを決めていたけれど

こればっかりは、仕方がない


バタバタと準備をしている

その音だけで、楽しそうなのが分かる

僕も、きっとそう


鍵を閉めて、家を出る

川沿いの道を散歩する


僕は、君のための五線譜を引いて

後ろからは愉快なタップが、いつもの道に音符を刻んでいく


ト音記号(みちしるべ)も、君の役目で

ふと僕の前に出たそのとき、僕の顔を確かめて意地らしく笑った


手袋を忘れた手のひらを

握ってくれたんじゃないか、と勘違いしてしまう

ついでに溢(こぼ)れた微笑みに、君は満足気な顔で応えて

また、僕の隣に収まった


気づかれないように息を吐く

どうしようもなく、こころがありふれた。


— ありふれる —

model : mitsu

camera : SONY α7Ⅳ

lens : SONY FE35mm f1.4 GM

filter : Kenko WhiteMist No.1

幸せになりたくて、ここで生きていくと決めた


東京の街は、思っていたよりもずっと

誰にでも優しかったから

なんとかやさぐれずにいられた


まとまりのない気持ちを詩(うた)にしては、ヘタクソなギターを手に取って

コードもストロークもチグハグなまま、言葉の行方を探しに行くんだ


夜の渋谷へ駆け出して、

スクランブル交差点の煌々としたサイネージが消える瞬間に居合わせた

眠らない街の眠った景色が新鮮で

星なんか見えなくても、充分すぎるくらい綺麗だった


忘れたい過去がないなんて言ったら嘘になるけど

それだって、ぜんぶ自分なんだから

何も間違ってなんかないって、証明するよ


いつかまた、君がちゃんと夜を眠れるように。


—言葉の行方—

model : hiyuu

camera : SONY α7Ⅳ

lens : SONY FE35mm f1.4 GM

filter : Kenko whitemist No.1


私たちが持って生まれるものは、きっとひとりひとつだけれど、何かがどこかが似ているだなんて、言われてしまう瞬間がある。ただ、本当に誰とも違うのは、「声」だと思う。

ここにあるのは、私と貴方の唯一無二。言葉に滲む気持ちの温かさ。そんな恥ずかしいことは、きっと言えない。どうせ、ばれてるんだろうけど。


コトコトコト

いつも通り、お湯が沸いていく音がする。

「・・」

「おーい」

「・・・」

「おーーい…」

カウンターの中、目の前で、祐月さんが手を振ったところで、視界がはっきりした。

「はっ、ごめんなさい」

「全然。何か気になることでもあった?」

「なんにも、ない、ですよ…?たぶん」


たぶん…?


カランカラン

「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ!」

すこしだけ声を出すのが遅れた。タイミングよくお客さんが来て、カウンターの角席に座る。メニューを目を凝らして、唸って、いる…。声を掛けていいのか悩んでいると、

「どうされました?」

と彼がお客さんの前に言って、それとなく聴いていた。

「いや…こういうお店、初めてなんで、よく分からなくて…」

「そうでしたか。普段、珈琲は飲みますか?」

「ええ。まあ、よくあるチェーン店のですけど」

ひとつ頷いて、

「ミルクやお砂糖は使いますか?」

「いえ、基本ブラックです。甘いのは苦手なんで」

もうひとつ頷いて、

「であれば、こちらはどうでしょう」

と言って取り出したのは、メニューに載せていない豆の容れものを取った。蓋を開けて、香りを出す。

「ああ…いい香りですね」

「淹れるともっと香りが立ちますよ」

「じゃあ、それにします」

エルサルバドル、パカマラの深煎りだった。豆は他の種類より大きいけれど、香りは華やか。深煎りでもしっかり味が出る美味しい豆。


ポトリポトリ

極細口のポットで、ゆっくり時間を掛けて、丁寧に落としていく。


「香りからどうぞ」

「…。ああ、いいですね」

味わっているのが目でわかるように、飲みすすめていくのが印象的だった。

「ご馳走さまでした」

「お粗末さまでした。どうでしたか」

「いつも飲むのとは違いますね。これが美味しいコーヒーってやつなんですかね」

「どうでしょうか。味云々が分からなくても、その気持ちが本当だと思いますよ」

「それなら良かった」

「僕も嬉しいですよ」

それから、ひとつふたつ言葉を交わして、満足そうな顔をして帰っていった。



2人に戻った店の中で、彼がふと溜め息を吐いた。

「どうかしました?」

「いや…」

緊張している風だった。言葉を探しているらしい。どうしてかは分からない。

「今日、誕生日、だね」

緊張に照れを足したように言う。ああ、なんだ。かわいい。

「詩歩にこれ、用意したんだ。喜んでもらえるか分からないけど…」

差し出されたのは、私の大好きなザッハトルテとお手紙だった。開けたのは、彼。読んだのも。聴いたことは内緒だけど、柄にもなくわんわん泣いてしまった。彼の顔をまともには見れないうちに、そっと抱き寄せられる。私の名前を呼ぶその声が、愛しくて仕方なかった。


悲しい涙じゃないからいっか。なんて冷静に考えながら、私もそっと腕を回した。


—ひとりひとつ—


たくさんの花束—しあわせ—に満たされて

君のお陰だって伝えたくて、どうにか言葉を重ねた


涙、我慢するの本当に、大変だったんだからね


歩みは止めないよ

続いていく今日のために。


花束 — another story —