On the right page.2

君は、ほんの2ヶ月前に来たばかりで

前のホテルは、同じ道なりにあった

とは言っても、今度は送迎バスがあるくらいだから

駅からはそれなりの距離感だ


案の定、身体はそれなりに疲れていて

丁度よくやって来た送迎バスに乗って

クロークで荷物整理をして、天然温泉に直行した

普通のマンションの9階にあって

吹き抜けの天井からは

昨日の雨が嘘みたいに、晴れた空が確かに見えた


いくつもあるお風呂に浸かっては休みを繰り返して

たっぷり1時間半も入ってしまった

夜行バスの疲れを取るには、それくらい必要だった


荷物を外出仕様にして、ごはんを食べることにする

折角なら地ものが良いと、お好み焼きランチなった

ただ、名前のよく似た手前の店に入ったせいで

たこ焼きは、お預けになった

それでも、鉄板でしっかり焼かれたお好み焼きは

おかずとして申し分なかった


君たっての希望で、大学見学に行く


他人(ひと)に言わせれば

どんなデートだと顔を顰(しか)められそうだけど

そもそもこれはデートパートじゃない


これには、ロマンスよりも夢がある


着いた瞬間、なんとなく違和感があって

目的地を改めて君に確かめると、キャンパスが違った

普段の僕らなら、慌てふためいて喧嘩になるけど

まだ午後3時にもなっていない


時間の余裕は、心の余裕だ


踵を返して、モノレールに乗る

「モノレールって、ホントに線路1本なんですねえ」

鉄オタ心に火が点いて、興味もない話を延々してしまう

僕の悪い癖が出てしまった


さほど時間は掛からずに目的地に着いた


体験講義には、旅の直前で気付いたものの

申し込み期限に間に合わなくて、せめてと見学に来たのだった


「周りからは、どう見えるんだろうね?

 学生に見えるかな」

若い君ならまだしも、31歳の僕には気が重い

「案外、大丈夫なんじゃないですかね。

 若く見えますし」

うん、嬉しい、嬉しいけどね

やっぱり歳の差を感じて、悲しくなった


大学の学食の話なんかしながら図書館に行ってみる

一般の人も入れるとのことで、一安心した

ジャンルこそ違っても、ふたりして本の虫だから

思い思いに過ごしてみようと別行動してみた


すると不意に君が隣で読み始めたから

慣れない場所だし、ひとりは不安だったのかなと

申し訳なくなる

でも、隣にいると話し掛けて邪魔してしまいそうで

僕は別の階で、特に宛てもなく本を見ることにした


これだけ大きいならと期待したけど

詩にまつわるものは、1段くらいしかなかった


目に留まったのは、「詩とは何か」について論じた古書だった

細かく思い出せないけど、


—詩とは、定形のない衝動的なものだ—


原文はもっと長かったけど

そんなふうに書かれていて、妙に納得してしまった


「大学の雰囲気って、好きです。

 やっぱりちゃんと勉強したい」


君の夢は、僕の夢だから叶えてあげたい


「一緒に叶えような」


僕は、そっと左手をとると

君は、すこし面映そうにした


さっき食べ損ねたたこ焼きを食べるなんて

小さな夢も叶えておいて、ホテルに戻った。


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