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どうしても、君の晴れ舞台が観たかった

それは家族としての義務感からじゃない

部活を一緒に頑張る仲間を応援するように

思いきり青春に生きる、純粋な衝動だった


スーツケースに、ふたりぶんの荷物を詰めていく


この旅がふたり旅のワクワクだけじゃないのは

君の希望と夢がありったけ詰まっているからかも知れなかった


忘れものなんかしてやるもんか


君はこの日、6連勤の最終日だった

毎晩、僕が迎えに行くくらい怒涛の日々を

どうにか乗りきったのに

労う間もなく夜行バスに乗り込まなないといけない

新幹線でさえ辛いと言う君には酷な話だ

僕のせいだと、何度も詫びたい気持ちで一杯になりながら

バス停最寄りの駅で、晩ごはんを食べながら君を待った


新幹線も止まるくせに、改札が2つしかない奇妙な駅で

あえて閑静な方に行ったのには、笑ってしまった

もうすこしだけお腹を満たしておこうと

呑み屋街に入ったのは、正解だったんだろうか

降り出した雨を避けるためもあったとは言え

やっぱりマックで良かったんじゃないかなあと、ふと思う


バスは時間より早く来ていて

ドアを開けて待っていた


僕は久しぶりの、君は初めてのバス旅だ

旅慣れた僕だって、正直なかなか使わない

身体にはどうしたって負担が掛かる

どうせ着いたらすぐ温泉に行くから大丈夫

なんて、気楽な気分にはなりきれない


走り出した夜行バスで

再三、運転手が注意喚起する

「消灯後は、スマホ絶対に触らないでください!

 クレームが増えたら禁止しますから!」

それくらい言わないと当たり前を守れないなんて

寂しい生きものたちだ、と思わずにはいられなかった


夜景も見れなければ、明かりもつけられない

すんなり寝ることにする

フットレストが付いているはずなのに、誰も使っていない

気づかなかっただけかも知れないけど

サイレントで車両変更されていた

頭を置くところさえ簡易なもので、ガッカリする


そのお陰って、言いたくはないけれど

右隣の君が、左隣の僕に頭を預けてくるのに

差し障りないのが嬉しい誤算だった


深夜の高速を走り抜ける

カーテンの内側で前から後ろに流れる街灯が

進んでいることだけを教えてくれた


目的地は「大阪」


大きな遅れもなく無事に着いた

降りて最初に目指したのは

今夜泊まるホテルの真向かい、天然温泉だった。


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