Darling

いつもより早く君が出勤する日は

だいたい決まってお弁当をつくる


好みは同じだから、献立を考えて食材を買うだけだったのに

人参と糸こんにゃくと木綿豆腐を買い損ねる凡ミスをした


ちょっとの献立変更はあったけれど

早起きしてキッチンに立つ僕は、とても気分が良い


和風牛すき(豚もいるけど)弁当

・ごはん

・牛肉じゃが

・出汁入りスクランブルエッグ

・きんぴらごぼう

・自家製たこさんウィンナー(※自宅でカットしただけ)


さて、どこからやろうかと考える

この時間が、下手したらそれなりに長いかもしれない


せめてキッチンは証拠隠滅して

お弁当の中身をバレないようにしたかったけれど

君が起きてくるまでの残り1時間で

朝ごはんまで用意するのは、さすがに至難の業だった


案の定、間に合わずバレた

食べ方は伝えたかったし、仕方ないやと諦める

「ご飯の上に卵を乗せて、その上に牛肉乗せてね。

 それで、牛丼風になるから」

チーズ牛丼まで考えたけれど、さすがに重すぎると思ってやめた

そんなことは梅雨知らず、君は嬉しそうにしている


朝ごはんの支度は、普段通りふたりで分担した


「お弁当、忘れたら怒るからね」

「じゃあ、出るとき持たせてください」

「へ?」

素っ頓狂な声が出た

「うん、分かった」

そう口にして、ふともうひとつの可能性に思い当たったときだった

「駅の改札で」

「言われると思ったよ…」

呆れでも諦めでもなく、“ですよねー”だった


準備をして一緒に出る


「いまの僕らって、ホントあべこべだよね。

 君は仕事に行って、

 僕は、お弁当渡して見送りなんてさ」

「いいじゃないですか。

 貴方は良いダーリンです」

「君はハニーだね。

 って、いまは逆だよ」

自分で笑って言っておいて、ふっと疑問に思った

「男が女のひと相手にダーリン、って、言うことあるの?」

「洋画だと、そういうの普通にありますよ」

「へえ、そうなんだ」

下らないような会話をしながら駅に向かった


改札の前で

「はい」

「ありがとうございます」

周りの人からは、どう見えているんだろう

「いってきます!」

「いってらっしゃい」

僕のダーリンは、可愛く、3回も手を振って出掛けて行った。


— Darling —

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