半熟
昨晩から、どうにも気分が悪い
晩ごはんを早めに済ませた君が
お腹を空かせて帰ってきたから
リビングで晩酌をすることになった
お酒とお菓子では当然足りなくて
夜食に和えるだけのパスタを2種類も用意する
この罪深さもあって、とても気分が良かった
それなのに。
着替えもせずに寝始めた君を見て
もやもやしてしまった
仕事で着るスーツに皺が入る
目の前には大量の瓶とお皿と袋のゴミ
身体を揺すって声を掛ける
「お風呂どうするの?」
「起きたらにします〜」
これは起きないやつだと諦める
先に部屋に行ってもらって
ひとりで片付けてしまえば良かった
それで、僕の安寧は守られたはずだ
一緒に寝ることを選んでしまった
馬鹿なことをした
午前4時、ようやく君が起きた
圧倒的寝不足で、僕は不機嫌極まりない
無言で洗いものをして片付けていく
食器を拭く君が僕を心配そうに覗き込む
「どうしたんですか?」
いま口を開けば喧嘩になるから、だんまりを決める
ふたりで布団に入ってから、僕は、愚痴を吐いた
「一緒にお風呂に入りたかったんだ」
「お酒飲んでるし、仕事で疲れてるから無理です」
即答されて苛々する
出来るように考えて欲しいとお願いしたところで
家でまで、ちゃんとしないといけないのはしんどい
そう返されるだけだ
化粧落としと歯磨きだけ、君は済ませて寝た
午前10時、アラームが鳴る
いつも通り、ごろごろしている
僕の不機嫌は、最早君のようで
そう気付いているのに
埋もれている自分に苛々が増幅する
「どうしてそんなに苛々してるんですか?」
「僕は、いつも仏でいられないだけだよ」
吐き捨てるように言ってしまった
朝ごはんがいつも以上にギリギリになる
午前11時前には、食卓を用意し始めないと
君のペースを確保できないのに
そのペースさえ守れなかった自分に
僕の苛々は最高潮になった
必要な食材を冷蔵庫から出して
サラダとご飯の用意を無言で任せる
キッチンは、僕の独壇場になった
フライパンに卵を割り入れて、それぞれのコップに氷を盛る
アイスラテのためのエスプレッソを淹れたところで
フライパンの火を止めて、余熱で目玉焼きを仕上げた
サラダを乗せたお皿に取り分けて
さっきのカップに牛乳を注いで、ようやく食卓が整った
フライパンを片付けながら声を掛ける
「ごめん、なんかすごい苛々してた」
「私みたいでした」
「そう、だよね」
お見通しだった
「苛々して、君の顔すら見れなくて情けないね。
見れば落ち着くのにね」
「そうなんですか?」
そういうもんだよと返して、目の前の君を意図的に眺める
いつもより優しく見えて、気を抜いたら泣いてしまいそうだった
「僕が機嫌悪いときは、君がしっかりしてるから、
バランス取れてて助かるよ」
お礼のつもりだった
皿洗いを快く引き受けて、君に支度を促す
廊下を駆け回って
「行ってきます!!」
慌ただしく仕事へと出掛けて行った
家事が済んだら、外に出よう
僕にだって、息抜きは必要だと思って。
—半熟—
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