安眠の秘訣
「私の朗読で、寝かしつけてみたい」
唐突な提案をされた
講座の練習を兼ねているらしいけど
「無理だよ」
笑って返す
この世界に唯一の声に朗読なんかされたら
睡眠導入どころか目覚ましにしかならない
ついで、貴方の詩を読みたいと言い出したので
課題文の練習は、早々に放棄することになった
君が好きそうな単語の入った詩を探して手渡した
さっきまで眠そうだったのに、普段の調子で読み始める
切り替えの速さには、いつも驚かされてしまう
君の朗読は、上手とか下手とかそういう問題とは無縁だった
僕の言葉を丁寧に読み解いて、伝えようとしてくれている
面映いというか、こそばゆいというか
何とも言えない気持ちに満たされていた
読んで満足したのか、君は掛け布団に潜り込んだ
僕はお返しとばかりに、大好きな小説の続きを読む
あろうことか、たった2ページも待たずに眠っていた
「ほらね」
独りごちても、もう届かない
僕の声に、安眠効果があるなんて
科学的に何の担保もないけれど
君にとっては、毎度そうなんだから
この証明問題は、既に解けている
夢見も良ければいいのにと思うけれど
今朝の君の夢は、また慌しかった。
—安眠の秘訣—
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