二日酔い
昨晩、同僚との飲み会から帰ってきた君を
迎えに行って本当に良かった
改札を出てきた君は、見たことないほど酔っていた
支えなしには、歩くのもままならない
いつもより甘い声で、僕を呼ぶ
可愛いと思ってしまうあたり、相当好きだと思う
「私が2次会行こうって言ったのに、
これ以上はまずいなあって、思って抜けてきました」
「なんて言って抜けてきたの?」
「明日、仕事があるからあって」
以前は、そのあともっと飲んでいたと言う
相当強者(つわもの)だったんだろうと思っていたら
自分を傷つけるのに近かったなんて宣(のたま)うから
思いきり、めっ!をした
「でも、貴方が待ってるから帰らなきゃあって」
酔ってるせいだとしても、こんなのはずるすぎる
いますぐ抱きしめたくなったけど
行為に及ぶより先に、君がそうしてくれた
ワイン味を感じるキス付きだった
飲み会では、僕の話もしたらしい
どう話したのか気になって、突っ込んでしまう
「大切なひとができましたって。
そしたら、羨ましがられました」
弁当の件(くだり)も話したそうだ
君が僕の話をしてくれるのはやっぱり嬉しくて
酔ってもないのに、とても気分が良かった
歩いていると、僕の首に腕を絡めてせがんでくる
「おんぶー」
「それは無理〜」
鞄2つに人間1人なんて抱えられないことは、
以前にも証明したはずだったから、代わりに
「電車ごっこならいいよ〜。連結連結ぅ」
言いながら両手を後手に引く
これから帰る、とくれたメッセージに
水を飲むんだよという僕の返事は律儀に聴いて
ペットボトルを1本買っていたけど
殆ど飲み切っていた
歩きながら、残りを飲もうとするから
服をすこし濡らしてしまう
どうしようもなく進まないので、普通に手を繋いで帰る
途中、自販機で新しく水も買う
「私のさいふう」
こんなところで出したら、何が他に出るか分からない
さっと小銭を出して、君に渡す
「ありがとお」
顔が赤くないのが不思議だった
昼間の映画の話をしながら
家までの道を再び歩き出す
差し当たりそれが終わったころ
「今夜は、貴方の部屋に直行しますぅ」
謎の宣言を受けて
「わかった、待ってるよ」
大体の場合、自室と洗面台を往復しているうちに
15分以上待っているのが常だけど、その日は早かった
僕の部屋に来てすぐに布団にダイブする
しっかり甘やかして、眠りに就かせた
僕だけ、何故か上手く眠れなかった
次の日、君は軽い二日酔いになった
布団の上で唸っている
ようやく起きたと思ったら
布団の上に座り込んで
まだアルコールが抜けていないのか
甘い目で僕をじっと見上げてくる
「どしたの?」
「見つめたかったんです」
無言になってしまう
君の唐突な言葉に、僕の心臓が耐えられるのは
それだって不思議でしかない
いっそ七不思議にしてもいいんじゃないかとさえ思う
ふたり分の朝の支度をする
仕事も私用も早起きが続いた昨日までとは違って
今日からは、また遅い帰りを待つ生活だ
僅かに寂しい理由が、分からなかった。
—二日酔い—
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