枕探し
君の眠りは、僕よりずっと深いはずなのに
気疲れする夢を見てしまうことがよくある
そんな夜に限って、
フィギュアスケートのアクセルジャンプみたいに
枕の上で両手を上げている所為か
起きる度、酷い肩凝りで、その度に揉み解してきた
僕の枕で寝ていたときにはそんなことはなくて
君が自分のを持ち込んでからだと思い至る
新しく買おうという話で落ち着いて
よく名前を聴く家具屋に、買いに来ていた
「僕と同じので良いんじゃない?」
そう話していたものの、色々な枕をこれでもかと試す
近くにあった抱き枕も試してみる
「抱き枕は、貴方が居るから…」
「ぐふっ」
上目遣いの君で言う君に、敢えなく撃沈させられた
枕に負けるようでは、色々と居た堪れない
1時間くらいは居ただろうか
枕は、僕と同じものを選んで
カバーは、柄違いで2枚買った
そのうちの1枚は、僕のと色違いだ
ご満悦の様子で、お店を出る
明日から3日連続の早出出勤だから
早めに帰ることにしたけど、
急行列車は夕方のラッシュで混みあっていた
連休明けは、なかなか大変らしい
「忙しくて外出れそうにないなら
弁当作るけど、どうしようか」
「じゃあ、お願いします」
明日のお弁当が決まる
ついでに、僕の早起きも決まった
メニューを考えていると
目の前で、君がふっと笑ったから聴いてみた
「思い出し笑いです」
「なんの?」
「ちょっとしたことです」
「ふ〜ん?」
その先を促してみる
「貴方とじゃれたこととか思い出して」
「そういう思い出があるって、いいね」
「そうですね」
今夜の献立が、夏野菜カレーにも関わらず、
お肉がない悲劇的な冷蔵庫をどうにかするために
最寄駅に着いてから、スーパーへ立ち寄る
豚肉の切り落としと、他に必要なものを買って帰宅する
炊飯は君が、カレーは僕が担当する
カレーに使う以外のお肉を小分けで冷凍する段階になって、
明日のメインに使う分をどう分けるか悩む
いまやってしまうと当然中身がバレてしまう
「見ないようにしましょうか?」
聴いてくれた君に
「いや、いいよ」
大事なのは、きっと美味しいかどうかだし
これは手が込んでるから仕方がない
そう言い訳して、米を研ぐ君の横で、ミルフィーユチーズカツを仕込んだ
カレーは美味しく頂いて
ビール2缶とレモンサワー1缶を仲良く分けて
お風呂に入って
真新しい枕で、初めての夜を過ごした
次の日、寝起きた君に肩凝りはなかった。
—枕探し—
0コメント