澪標 月 — moon —

ーこれまでの生き辛かった日々を話して

 それでもふたりを選んでくれたから

 この不自由を一刻も早く終わらせて

 一番近くて遠い君と、一緒に息をして明日を生きたい


 僕には、君と叶えたい夢がたくさんあるー


夏の午後、相変わらず強い日差しの下

日傘を差して、ふたりで駅に向かいながら

すこし前のことを想い出していた


あの日は、星灯かりが綺麗な月夜だった


僕も観たいと言った映画を

君は、一人で観ると言って出掛けた

情けなさと孤独感で遣る瀬なくなって

結局、僕も同じタイトルを独りで観に行った

終電で帰ったら

僕“も”どころか、君は観てなくて

一緒に観たかったって、泣いたんだっけ


これを観ることは、些細な夢かもしれない

だからこそ、あのときやっておけば良かったなんて

言いたくないし悔やみたくもない

日々が積み重ねなら

どんな些細な夢だって無駄にはならないはずだ


上映10分前に滑り込む

初めて来る、音の良い劇場だった


不自由な生き方を強いられたあのころ

限られた時間の中で

何かを選ぶことさえ許されなくて

謂れもないのに責められたり

どこにも飛び込んでいけなかったり

それでも、何もかも奪わないでと

全力で不自由に立ち向かって

かつて生きたひとが、星々を繋いで星座をつくったように

いまを生きるひとが、ひとを繋いで想いを叶えた

大人たちと若者たちのお話


二度目のはずなのに、いま想い返したって涙が出そうになるのは

僕にもいつか、そんな“不自由”があったからかもしれない


劇場を出ると、空は深い青と紅のグラデーションが綺麗だった

ビルの隙間に、星も月も見えた


映画の感想を語りあうために、劇場に程近いカフェに立ち寄る

以前から気になっていたところだった

タルトタタンとクレームブリュレを頼んで、ふたりで分ける

どちらも甘過ぎなくて、ほろ苦い大人の味がした


僕らは、何も奪われてない

42回も、紙を折らなくたって

「どうしたい?」って、確かめられる距離に居る

その軌跡を、これからも僕は君と書いていたい


一緒に帰って、一緒に晩ごはんをつくる

君が洗濯に行った間に、下準備が全部済んでしまった

戻ってきた君に、コンロの上のことばかりお願いして

初めて、肉豆腐なんてつくった


「美味しいですね」


ごはんとスイーツは別腹だって、

本当によく言ったもんだと思った。


澪標 月 — moon —

A recollection with you

カフェ“ポエム” since 2010.11.27

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