あふれる

僕らの間には、たったひとつ約束がある


“お互いにひとりの時間を大切にする

 そして、そこには、干渉しないこと”


君の自由が羨ましくて仕方ないときがある

そう思ってしまう自分が疎ましい


「僕は早く自由になりたい。

 そしたら、全部自由の所為にできる」

「そっか…」

「自由になって、君を連れ出したい」


そう口にしたときには、もう君は眠っていた

深夜3時も回って、こんな話をしてしまったせいで

眠気には、唐突に置いてきぼりにされた

日が昇るまで僅かな時間しかない

おはようもいってらっしゃいも、直接言えない


募る寂しさを、せめて誤魔化す方法が知りたかった


今日の支度は、昨日のうち大体済ませてあるから

基本的に、あとは出るだけにしてある


洗顔や歯磨きをサクッと済ませて

君がまだ寝ているベッドに横入りする

それが分かったのか

僕に身体を向けて、布団ごとホールドされる

いきなり遅延証明書の処理がどうとか言い出して

「いつのこと?」って聞くと

「ねむいー」と返ってきたから

また仕事の夢でも見ていたんだろう

それに、いつもより寝相がアクロバティックだったから、

それなりに大変な夢だったんだろう


20分くらいそのままでいた


「同じ家に住んでいるのに

 君といる時間が少ないのは、

 やっぱり寂しいんだと思う。

 それに、何してるか分からないのは

 怖いんだと思う」

「うーん…、、そうですか…」


前に、嫌だと言われたことだった

“寂しいは、重い”って


「僕は弱いね」と零すと、

「そぉーんなことないですよお」と大きめの声で返される


この会話は、きっと君の記憶には残らない

覚えてないことを謝る必要はない

話しているうちに、出る時間になってしまう


「送り出す方は、寂しいですね」

「帰りを待ってるのも寂しいよ」


僕には、どっちもわかる

だから、君が寂しくないようにできることは、

どんなに些細なことでもしておきたい


「駅で、すれ違えるよ」


君をベッドに残して、僕は家を出た。


—あふれる—

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