僕の欠片
僕らには何気ない朝と何気なくない朝がある
今朝は、何気なくない方だった
いつも通り朝ごはんをふたりで用意する
できることをできる方が率先してやる
なかなかいい連携だと思う
そういえば、最近の食卓は
君が真向かいに座るようになった
以前は、置いた皿を動かしてでも
斜め向かいに座っていたのに
どういう心境の変化だろうか
想像するほかないけれど、耽る余裕なんかない
昨日のお弁当箱と水筒と
その他諸々を洗ってから食卓につく
今朝は“初恋”のアイスカフェラテを淹れた
そこで、いつだったか
君が昨日より更に早く出て行ったとき
ドリップコーヒーを持たせたことを思い出した
それを口にしたときだった
「コーヒーのいれ方、教えて欲しいです」
以前にも、カメラの使い方を教えてと言われたことはあったけど
これには、即答しかねた
僕からコーヒーを取ったら何が残るだろうかと思ってしまう
だから、つい冷たい言葉になってしまった
「教えようにもレシピがないんだよね」
「貴方の特別ですもんね」
そう言われてしまってから、
大好きな小説の一節が思い浮かんで考え直す
あのマスターは教えないだろうけど
彼の言い方を借りるなら、きっとこう言うだろう
「僕の教え方は、スパルタだよ」
ニヤリとして言うと、君は大変そうだという顔をする
ただ、やる気に満ち溢れたその顔を見て、ハッとした
僕がこころの底から大切にしているものを
教える勇気と自信が、足りなかったことに気づいた
君がいれたコーヒーを飲んでみたい
僕よりきっと優しい味がする。そう思う。
—僕の欠片—
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