澪標 僕のささやかな夢のあと編

眠い目を擦りながら、君のランチタイムまでは

なんとか起きていようと思った

お弁当の感想を聴いてから寝ようだなんて

エゴもいいところだった

だから、待てどくらせど何も来ないことに

とてつもなく不安になってしまう


愛妻弁当を男性が作ったら何て言うんだろうって

調べてたら、妻の弁当を捨てて帰るとかなんとか

そんなことが書かれてて、余計に不安になった


口に合わなかったら、捨てられてたら

気が変になりそうになった

そんな中で、僕を突き落とすようなメールが入る

もう、どうしようもなくなって

無理矢理、布団を被って眠った


帰って来て欲しいとは、口が裂けても言えなかった


君からのメッセージが来たのは

仕事が終わったずっとあとだった

それは君の事情も含めて、

僕には、わかっていたはずだった


お弁当の感想は、文章でも分かるくらい踊っている

メールのことは、僕でも、あれ以上の言い様はない

僕自身、傷ついてるのが、何のせいなのかよく分からなくなる


折角、仕事のあとを楽しもうってときに

こんな話するもんじゃないよなって

こころの片隅に罪悪感が居座っていた


「貴方の隣に駆けつけられなくて、後ろめたかったです」


そう言いながらも、僕がいて欲しいときに隣にいない

僕はどうだろう

君がいて欲しいときに、僕は隣にいてやれてるだろうか


「でも、これから会いに行きますから」


君は確かに自分が一番だけど、僕のことも考えてくれる

そんなひと、これまでいなかった

自分さえ良ければいいひとばかりだった


だから


君が僕という存在に

僕が君という存在に

縛られて欲しくなかった


定期区間外をありったけの速さで駆け抜けて

君は僕の部屋をノックした

「どうして欲しいですか?」

いつかの僕の言葉が返ってくる

強がりも見栄も張れなかった

「甘えたい。」

膝枕を借りると、

徐(おもむろ)に僕の頭を撫で始めた


「お弁当が美味しかったこと、

 本当は、すぐに伝えたかったんです」


君の職場内は、たとえ休憩時間であっても

スマホを自由に使えない

昨日に限っては外に出るのも、難しかっただろう

ごめんなさいと言われた

分かっている

分かっているけど、君の言葉が欲しかった


それに、頑張ったら報われたい

そう思うのは、いけないことだろうか

まして、未来を妥協で選択なんて

僕にはできないし、もうしたくない


「貴方は、ちゃんと頑張ってます。

 ちゃんとありますよ。大丈夫です」


君は僕に支えられてるって言うけど

それは僕の方で、

君がいなかったら、僕はとっくに潰れていたと思う


決まらない未来がもどかしい

いつまで待たせる気なんだと、自分を責めずにはいられなかった

そんな僕を察してか、そのまま一緒に寝てくれた

美味しそうな黒ビールの薫りがした


朝風呂をして、食卓の用意をふたりでする

ついでに、昨日のお弁当の種明かしをすることになった

君が褒めてくれた出汁巻き卵は

決して褒められた作り方ではなかったし

ささみチーズカツは、唐揚げだと思われていた


微妙な語弊をはらみながらも、美味しかったと改めて言われて

昨日より随分と素直に嬉しかった


またつくろう、なんて思いながら。


—澪標 僕のささやかな夢のあと編—

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