星灯—せいとう—
ひさしぶりに、ひとりの休日だった
明日のことを思えば、もっと話を聴いて欲しかったし
一緒に観に行きたいと話していた映画は
ひとりでいくと言われてしまった
ふたりの取り決めを破ることはできなかった
明日の支度に集中する
一通り済ませて仕舞うと
押し込めたはずの鬱憤が
思い出さなくても戻ってきた
君が観るはずの映画を観て、君より遅く帰れば、
すこしは気が晴れるかもしれない
馬鹿だと思いながら、そうせずにはいられなかった
上映を待ちながら、ドリンクバーで飲み物を4回お代わりして
1ヶ月前にふたりで観た映画の原作を読み終えた
今度の映画も、控えめに言ってすごく良かった
きっと観てるだろうから
早く語りあいたいのに
眼鏡がなくたって星が見えるくらい
今夜は綺麗な月夜なのに
いまここに君がいないことが、なんか悔しい
僕より随分早く帰宅していたから、変だと思った
また何かあったのか
あっても言わないだけか
お互いを傷つけるだけだと分かっているから
すぐに火消しに掛かる
代わりに、迎えに来て欲しいとお願いしてみる
駄目で元々、当然のように駄目だった
火消ししきれなかった感情に任せて、冷たくしてしまった
どれだけ馬鹿なんだと、自己嫌悪と鬱憤がごちゃ混ぜになる
落ち着けと、何度も言い聞かせる
行きより暑い帰り道をなんとか歩ききって
部屋に君がいないことを確認してから、お風呂に入った
どんな顔をしたらいいか、分からなかった
君の顔を見て、半分は融けた
融け残ったもう半分を、責めないように言葉を選ぶ
疲れて早く帰って来たというのが、さっきの真相だった
問いただすことは、いつでもできた
そうしないのは、君を信じていたいからだ
君が聞かないから僕も聞かないなんて、不躾な遠慮じゃない
僕は、あの半券を見せる
結局、君を泣かせてしまった
「一緒にいきたかったけど、言えなかったんです」
僕の不自由のせいだと知って
さっきまでの感情は、消え失せた
僕が普通に生きてる人間だったらって
君と一緒に過ごす時間の中で
何度も考えて、その度に自分を責めた
どうしてこうなった?
どこで何を間違えた?
傷だらけの過去を受け入れて
あまつさえ、愛してくれてるのは
正しい答えなんてひとつしかない
夜空に瞬くどんなに遠い星灯—せいとう—より
こんな僕を探し出して、
一番近くで、明るく照らしてくれてる君だって。
星灯—せいとう—
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