観劇 — prologue —
君が大好きなアーティストのライブを観る
4月末、僕らが僕らになって間もなかったなあと思い出す
君はあの日、意気揚々と出掛けていった
前から知ってはいたけど、僕は彼らのライブに行ったことがない
話に聴くのとその場にいるのでは、どうしようもなく違う
予習はしっかりしておいたから、役に立った
君の解説付きとは、また贅沢だ
今夜のお供は、唐揚げといつものマカロニポテトサラダ
全部手づくりだから、これまた贅沢だ
それからビール
世間のオヤジの晩酌みたいだった
再生ボタンを押してからの僕はといえば、
まるでそこに居たかのような高揚感があった
ライブは「Live」って当たり前のように書くけど
やっぱり「生きてる」って感じがしてすごく好きだ
作りこまれた物語と演出に興奮を抑えきれない僕を
君は優しく見てくれていたような気がする
語らいにも、いつもより熱が入る
芋焼酎の炭酸割りをチェイサーにしたのがいけなかった
彼らが呼びかけた大事なシーンだけ見逃してしまった
もう一度観ればいいとは言え、ちょっと悔しい
ふたりでこの長尺を、二度目は、きっとない
その呼びかけの “ 言葉 ” は君が教えてくれたから
どうにか自分を許してやることにする
彼らの歌は、言葉の「痛み」を
文字通りに、痛い程知っている
格好良いことは言えないけど
僕も、ずっとそうでありたい
そうやって超えてきた
ふたりの夜には答えがある
そう思う
大満足のライブだった
片付けて部屋に戻る
用意していた “ あるもの ” をようやくお披露目する
額に入れた、春に撮った君の写真
君だけに書いた詩を便箋に写した手紙とツーショット写真
喜んでくれていた、と思う
ベッドに腰掛けてから、君はもうすこしだけ話してくれた
「いつもは色々あって落ち込んだ状態で、
ライブに行って、みんなと話して救われて帰ってくるんです。
そんな繰り返しでした。
元気なままいくのもいいなって思いますけど」
そこで、言葉を切った
今年からは、もう違うよ、と思う
すくなくとも僕がいて、何があろうと守ってやれる
君が傷つく前に気づいてやれる
おんぶに抱っこはできなくても、一緒に背負ってやれる
してやりたいことと求められてることは
完全に同じじゃないかもしれないけどさ
いつだって、どんな君だって、愛している。
観劇 — prologue —
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