ハンバーグ

今夜のご飯は早々と決まっていた

手ごねのハンバーグだ


「ハンバーグならつくったことあります!」


ドヤ顔で言うから、本当かあ?と思ってしまう

なんせ、あの包丁捌きで玉ねぎのみじん切りは

難易度MAXに違いないからだ

ただ、前回に続いてやる気になっているんだし

その意気は買うことにする


君の料理スキルは、すこしずつ上がっている

忘れてることは多いけど


今日は、ミニシアターに行った


電車で1時間ほど、乗り換え2回のショートトリップ

君はとっくに行っていると思ったら、初めてだったらしい

先月観た映画と同じ監督の作品

君はとっくに観たものだと思ったら、初めてだったらしい

隣に君が座っているだけでも特別感満載なのに

50席程の席数がまた、形容できない何かで包んでくれていた


過去に失った大切なものといま目の前にあるもの

どちらが大切かなんて、到底比べられないけれど

いまを、あるいはこれからを生きることを

失った痛みを共通言語にして

わかりあったふたりだからこその、戒めみたいな愛の物語だった


カフェ激戦区は、歩けばあるのに軒並み営業時間外で

止むなくコンビニに立ち寄ってから帰宅する

電車が遅れていて今日の晩ごはんは一瞬危機を迎えたけれど

なんとか滑り込んだスーパーで挽肉を手に出来た


買ってきたばかりの挽肉を分量取り分けてボウルに入れる

案の定、難易度MAXのみじん切りは僕がやった

君がやりたいと目を輝かせて言うから

混ぜる作業から先は、殆ど見守ることにした

レシピにはない赤ワインを隠し味に加えて、さらに捏ねる

成形の段階で、そうでもないやらかしに気づく

1人1個が200gは、さすがに大きすぎて

君の手には余ってしまったから

途中で引き継いで、僕が代わりに空気を抜いた


タネを15分ほど寝かせている間に和風タレをつくった

あとは焼いたあとの極上の油を加えるだけだ


フライパンにハンバーグを移して焼いていく

ここに来て「ひっくり返したい!」と

また目を輝かせて言うので、任せることにする

内心では、かなりヒヤヒヤしていた

まあ、崩れたってご愛嬌だ


そんな僕の心配は、杞憂だった


フライパンの淵を使って、すこしの欠けもなく

とても丁寧に返して見せた

「綺麗にできた!」と、はしゃいでいる君が可愛い


お皿にサラダ類を盛ってもらって、

ハンバーグをその手前に置きに行く

その上に、オリジナルの和風タレをかけていく


僕と君の拳を合わせたくらいはある

お店じゃ、まず食べられない特大バーグを

ひと口ずつ味わって食べていく


食べながら、今日の映画を思い出す


僕は君の何を知ってるんだろう

まだ、知らないことばっかりだ


何でも知りたいのは、傲慢だと思うけれど

知らないことや見えないものがあるのは

不安と期待が隣りあわせになってしまう

それでも、君は僕と一生重なることはない

死ぬまで、永遠に平行線なんだよなあ


隣を見れば、君は確かにそこに居る

それだけで、十分じゃないだろうか


ビール2本じゃ役不足で、芋焼酎の炭酸割りを用意する

そこで、なんとなくギターを引っ張り出したくなった

君も、自分のを持ってくる


言葉を狂おしく抱き締めるように声を出して

こころを搾り出すような苦しさで弾く

君の弾き語りは、君の命そのものを感じさせるくらいに

素直でまっすぐだと思う

「貴方のお陰で、ちゃんと練習しようと思いました」

そう丁寧に伝えてくれた


君は僕と出会ってから随分と変わった気がする


ひとりからふたりになって

変わろうとしたから、変われたんだろうなあ

ひとりで生きることの意味を、君なりに見つけて

ふたりでいることの名前を、君がつけてくれて


ひとりからふたりになって

変わらず語りあって、喧嘩だってしたけど

ふたりであることと、ひとりとひとりであることを

こころから大切にしてくれている

僕らの日々は愛しさで溢れている


「貴方のお陰で、料理するのが楽しいって思いました!

 次は、何つくりましょうか!」


レシピ本を頭に浮かべながら、僕も、次の食卓を考えた。


—ハンバーグ—

A recollection with you

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