背中
日々、誰かと向き合ってたくさん言葉をつかう君は
日々、自分と向き合うときにもたくさん言葉をつかう
朗読も、そのひとつ
大人になっても何かを創る側にいることは
酷く難しいことのように扱われてしまう
だから、続けることを選んだ君はすごいと思う
コンテストがあると聴いてはいたけれど
出るかどうか悩んでいると言う
いろいろ聴いて、出ない理由はどこにも見当たらなかったから
僕は迷わず、君の背中を押した
「いましかできないことだし、やった方がいい。
プロほどじゃないけど、アドバイスくらいはできるよ」
それが普段の君を彷彿として
しかも僕っていうのが、とても嬉しい
僕の学生生活は、放送部で成り立っている
朗読するのは好きだから、いまでも人知れず続けている
外郎売りなんて、何年ぶりだろう
まともに読めた試しは一度だってないけれど
モニターに映して、一緒に読むのは楽しかった
コンテストの原稿に印をつけて、読み込んでいく
切る
切るきらず
立てる
意味の繋がり
並んだ言葉が身に染みていく
この感じが好きだ
君は印を付けない代わりに
ノートに書きつけていたから
それと合わせていくことにする
練習を始める
君の朗読をマイクなしに聴けるのは
贅沢だなあって思う
君の声も表現も大好きだから
褒めるところは褒めて、直すところは直していく
「台詞を大事にしたい」
そう話す君が、登場人物の女性とどことなく似ていたから
「僕に言うように言えばいい」
って、自惚れまくったアドバイスをした
イメージしやすかったみたいで
台詞とはいえ、グッと来ちゃう自分がいた
読み終えたとき
「頭の片隅に、僕いたでしょ?」
って聴くと、狡い目で見てから控えめに頷いた
きっと物語の彼も、同じ気持ちだと思った
コンテストのルールを確認してから本番を録る
指でキュー出しをする
重ねたリテイクの最後は、君の声が物語と交わった
本当に良い読みだった
「私の一番良いところを知ってるのは貴方です」
僕は常にそうありたいと思っている
君の良いところなんて、どれだけあることか!
行(ぎょう)が全然足りない
全部、言葉にできるかわからないくらいだ
君の夢も希望も、僕はちゃんと叶えたい
そのためなら、なんだってする
「応募したよ!ありがとう!」
って、その夜メッセージをもらった
「君の想い、ちゃんと届け!」
って、僕は願った。
—背中—
0コメント