声
ここのところ、しっかり休んだ記憶がない
お互いに忙しなくしていた
昨夜よりも荒れ模様なのは
明日が雨だからじゃなくて、君の心労がピークだからだった
その声は、僕にだけ届く
「叫びたい私がいるって、貴方だけ知ってて欲しい」
僕はこの世界に一人しかいない
君に選んでもらえるならどんなことでも光栄だ
しばらく続いた吐露の果てに
君は僕の膝にうずくまって泣き出した
記憶の限り今夜が2度目だった
弱音というよりは、懇願だった
「頑張るの、もう疲れました…
頑張らないと生きられないのが嫌です」
「でも、頑張ったら生きられるんだよ」
すぐに言葉を返してからしまったと思った
けれど、逆の発想ですねと半ば納得されてしまう
果たして本当に逆だろうか
頑張って生きるのは、酷だと思う
いま息することを、ただ許されるためだけに
必死になるのは
やめたくなったって当然かもしれない
「死にたいって言うの我慢してるでしょ?」
考えながら、全部受け止めるために続ける
「いままで一人で泣いてきたんでしょ?
もう、一人じゃないから」
顔を埋めたまま頷いたあと、ふっと君が離れた
その瞳は涙で潤んでいるのに
純朴で、綺麗で、見惚れてしまう
大人だからって、いつも強くなんていられない
ハリボテでもタテマエでも
どうにかして繕って普通の顔をしてないといけない
だからどうか僕の前でだけは
そんなものをかなぐり捨てて欲しかった
孤独にやり過ごす必要は、もうどこにもない
泣いたお陰だろうか、すっきりしたように見えた
僕が渡したティッシュで顔を整えてからすんなり眠る
寝顔にさっきまでの苦しさや哀しさはない
それを確かめてから、僕も眠りに就く
僕は何をされても傷つきはしない
どんな君も、君だから愛している
きっと届いていると、信じている。
—声—
0コメント