マーマレードティーソーダ

「君が教えてくれた曲を練習しているんだけど」

いつもの時間に帰ってきた君をリビングに呼んでみる

「行こうかな」

と返事があって、打算半分だったことをちょっと反省した


高校生の頃に買った青いギターは

実家の隅に置いてきた

惜しい気持ちはある

でも、あそこに戻りたいとは微塵も思わない

薄情だと言われるかもしれないけど

僕は今を生きている


アドバイス求めると

思いがけず同じ曲をアルペジオで演奏してくれた

ギターを弾く君は、まとう雰囲気もさながら格好良い

分からないままに合わせてみる

歌えるなんてお世辞にも言えないけど

サビだけでも、何だか胸が温かくなった気がした


お互い良い子で、お風呂に入る

入れ替わり、バトンのようにドライヤーを受け取った


部屋のエアコンは、低めの温度にしてある

布団で調整すればいいというのが、僕の考えだ

今夜も、すうっと潜り込む


「くっつくには暑いけどいいよね」

こちらに向き直って、強く抱き締められる

「くっつくために冷房強めなんだよ」

聴こえるようにボソッと言って、キスをした

眠りにつくのに時間は掛からなかった


すこしだけ早く起きて、寝坊助さんの代わりに

お米を炊くミッションをこなす


部屋に戻ると布団を抱いて睡眠を決めている

遅れてしまうのは困るからと、抱き抱えてようやく起こした君に

意地悪な質問をもう一度、笑いながら聞いてやった

「お布団と僕、どっちが好きなんだよ?」

その返答が斜め上過ぎた

「お布団に入ってる貴方が好きです。どっちとかじゃないです」

あまりのくすぐったさに、僕が布団に堕ちる

そのまま一緒に布団に堕ち直した君を何とか留めて

おはようをする


窓の外は、すっかり夏になっていた


部屋を出るだけなのに、行ってきますと言うので

行ってらっしゃいと送り出した

別に、何回言い直したっていいだろう


朝食はお向かいさんだけど、ペースはそれぞれだ

話すときは話すし、お互いの時間になるときもある


「なんか話したいことあった?」

なんとなく聞いてみる

すこしのあいだ、考える顔をして

「別にないです」

と微笑む

「ならいい」

と返す

やっぱり、読書をする僕を見ていたかっただけらしい


今朝は、マーマレードティーソーダをふたり分つくった

酸味と甘さが絶妙なバランスで

炭酸が夏の爽やかさを、より際立たせている


つまりは美味しい


「今日も、良い朝です」

「僕にも、だよ」


微笑みあって、もう一度、声を掛けて送り出した。


—マーマレードティーソーダ—

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