親愛
雨が降って、星も月もない夜だった
代わりに揚げ物と餃子、日本酒とビールを並べて
いつもの食卓で晩酌をする
なんかおじさんみたいだねって、ふたりで馬鹿笑いした
どんなことを語らうときも、だいたい僕らは向かい合っている
今夜の議題は、君の好きな歌について
誰のと言うわけにはいかないけれど
その歌詞は、深く刺さったのだと言う
自分事として考えてみる
この歌を初めて聴いた君が、どう生きていて
何を思って、どこに心動かされて
それもまた、言葉を交わしながら、答えあわせをしていった
「 “親愛”ってしっくり来ませんか?」
確かに、僕らにお似合いだと素直に思う
僕は毎日、君に手紙のように詩を書いて
君は僕には想像もつかない言葉を、予想もできない瞬間に返してくれる
だから、これだって。
「貴方のことが、大切になっちゃったんです。」
そう言葉にした君の表情は
あまりに切実で、苦しそうで、
悔やんで戒めて、
矛盾しそうな何かを、謝ってしまいたいような
ただ、ありがとうって感謝するのも違うような
だけど、僕を好きだと言うことは
痛みさえあるくらい本当の感情なんだと知った
そしてその瞬間、
僕の中でずっと引っ掛かっていた何かが、音もなく外れた
何か失くしたのかと思って狼狽えた
違った
ようやく手にしたのだと気づいたとき
君を好きになって、愛していることの意味を理解できた気がした。
—親愛—
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