tasting three taps

待ち合わせは、このあたりで一番大きな駅にした


ずっと君はここにいて、去年までの僕が住んでいた場所

いつかどこかですれ違い続けていたはずなのに

いま、こうして手を繋いで隣にいるのがたまらなく愛おしい


年に何回かの休日出勤は、やっぱり大変だったらしい

まともに食べられなかったと聞いて

ご飯と、それからビールを嗜むことにした


ビールは、苦手だった

ジントニックともハイボールとも違って、無性に苦かったから

このところ、僕も呑めるようになった

しかも、好みが同じだから良いものだ


9つのタップから3つセレクトできると言うので

お互いの好きなものを1つずつ、気になるものを1つ選ぶ

今夜の僕らだけの、オリジナルセレクションだ


檸檬のように甘酸っぱいやつ

鰹出汁みたいな和風のやつ

カルーアミルクみたいなやつ


それぞれ個性的で、美味しかった


急に目を細めて喋らなくなる

疲れて眠いんだろうと思ったら


「貴方との時間を噛み締めてるんです」

「なん、っ、、」


な、何を言い出すんだコイツっ…!

他人の目も気にせず、テーブルに突っ伏した

僕には、もう降参する以外の選択肢がない

横並びのテイスティンググラス越しに、特大の白旗を揚げる


大満足とばかりに、こちらを見下ろしている君を

恨もうとも妬もうとも思わない

それどころか、好きで、こころが爆発しそうだった


残りは、宅飲みすることにして

最近ふたりでハマっているオレンジワインを手に取る

ツマミはブルーチーズに生ハムの完璧な布陣


生活するための丁寧な文句をもらいながら

ワイングラスを用意する

栓抜きがないなんて絶妙な凡ミスはしたけど

そんなことは、笑って済ませられる


僕一人分だけじゃ無理でも、二人分なら

大概のことは、乗り越えていけるんじゃないかって


だからこの先、何が起こったとしても

何を見ても聴いても、堂々と受け止める覚悟はしている


君のこころの奥の傷のことも

僕は、あると気づいていながら、そのときを待っていた

その重みとか深さとか、間違いなく君のものだから

僕には到底計り知れない

君を傷つけた人間は、絶対に許せない

でも、それだって悔しいけれど、言葉としてしか知り得ない


君は僕の前で、初めて声を上げて泣いた


世界に絶望しないように、必死に生きてきたんだ

嫌々に生活して、憧れの誰かになろうとして

叩かれて、否定されて

自分の人生は、間違いだけで彩られてきた

そんな刺すような痛みばっかりで

死ぬまでこれが続くんだと思ったら

本当にそうしたくなることが息するようにあって

それでも生きてなくちゃいけない理由をずっと知りたかった


ふたりで生きていくことだって

いままで知らなくてよかった

もし探し求めていたら

こんなに幸せだって、思えなかったかもしれない


ふたりで迎える慌ただしい毎朝に救われている

これは、片付けてるときだったよね


「朝が来るたび、夜帰って来るたび、

 貴方がいてくれて嬉しい」


この世界にありふれた、どんなにくだらない話だって

欲張って全部抱きしめていたい


久々に家の玄関から見送る

振り返った君の驚く顔で、僕は充分だった。


— tasting three taps —

A recollection with you

カフェ“ポエム” since 2010.11.27

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