おかえり

どんな言葉も、この世界にありふれたひとつなのに

口にするのが誰かで、不思議と意味を持ってしまう


言霊の存在は信じてるけど

魔法みたいな力は、きっとどこにもない

祈りとか願いとか

そういう類のものじゃないかって


家に帰ってきたとき、部屋を尋ねてくるとき

(それ以外のときもある)

僕は決まって、君に「おかえり」って言う


 お疲れさま

 今日も、よく頑張ったね、って、どうせ口にするのに


 お疲れさま

 貴方も、よく頑張ったね、って、伝えてくれるのは分かってるのに


そんなふうに意味をつけてしまうけれど

君は、ちゃんと「ただいま」って、返してくれる


たったそれだけ

されどそれだけ


何気ないひとときが意味を持ってしまうのは

言葉のそれと同じくらい、やっぱり不思議だ


言葉と時間は、もしかしたら似たもの同士なのかもしれない


次の日が休みの夜は

だいたいリビングで、ふたり酒をしながら語りあう


お酒の入った君もかわいい

その顔で言われるから、たまったもんじゃない


「私の帰りを待っててくれるひとがいるって、良いですね」


いつだって、不意に君の想いを聴くことになるわけで

いつだって、自分で到底抱えきれない愛情を持て余してしまう


待つことは、僕にとって諦めだった

叶わない夢のように、苦しいだけのことだった


いまどう思ってるかなんて言うまでもない

でも、言葉じゃないと伝わらない


「いつだって、待ってるよ」


僕らの夜(ことば)は、そうして優しく耽っていった。


—おかえり—

A recollection with you

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