coffee break
気配って、気を配ると書くけど
配っているんじゃなくて
本当は、届いているんじゃないかと思う
今夜もそうだった
何となく帰ってきた気がして
玄関を覗くと
やっぱり君だった
いつも分かるわけではないから
本当に何となく
それから、その背中に酷く嫌なものを感じた
当たらなければいい予感に
メッセージを飛ばすかどうか思案していると
遠慮がちに着信音が鳴った
君の声で、確信に変わる
すぐにでも駆け出しそうな気持ちを
どうにか理性で押さえつけながら、
画面の向こう側に全神経を集中させる
近いのに遠いなんていう
あまりのもどかしさと情けない程の無力さに
身体が捩(よじ)れられる想いだった
僕の声は、どうやら落ち着くらしい
息を整えさせて、いつも以上にゆっくり話す
話しながら、出来ることをやっておく
ひとりにしておくつもりは最初からなかったにしても
それを大人であることと天秤にかけた自分を
刹那、嫌いになりそうになる
ようやくひとつ落ち着いたそのとき、君の声が消えた
何度呼んでも応答がない
理性は、その瞬間に消し飛んだ
脇目も振らずに、部屋の扉を叩く
小さくノックする気遣いは、最早持てなかった
君と顔を合わせたとき、僕がどんな顔をしていたか
覚えていないくらい必死だった
そっと、ベッドに寝かしつける
今度は、一緒に息を整える
さっきまでの焦燥感が
完全になくなったわけではなかったけど
安心して眠れるまで
口数をすこしずつ減らしながら
頭を撫でて、背中をさする
しばらくして規則正しくなったところで
僕は、一呼吸おくように水を飲んだ
怖かった
明日が来るのは、当たり前な顔をしているのに
君が綺麗であることは、色々な軌跡の上にあるってことが
苦しくて、でも。
目の前のいまを素直に愛せることを
“奇跡”以外に、どう言えばいいんだろう?
君の手に、そっと僕の手を重ねる
沈んでいく意識の中、その温度だけで十分だった。
— coffee break —
0コメント