手のひらの中

雨が嫌いだ


締め切った部屋は

放送室の防音室みたいに

音も気配も

あるいは時間さえ

僕の世界から切り離していく


雨音が遠くに滲む


もう春は終わるよって

言われている気がした


そんなふうに取り戻せないものがたくさんあって

たったひとつを守れないことが

情けなくてみっともなくて、許せなかった


しゃがみ込んで、いくら自分を責めたところで

何が起きるわけでもない

長く使ってきた鞄の留め金は、とっくに壊れている


それでも捨てずにきたのは

なかったことにはしたくないからだ


僕の手のひらに、未だそれくらいの優しさはあると

信じていたいからだ


不意に扉をノックされる

書くことに、集中し過ぎていたみたいだ


今夜のお菓子は、なんだろうか

思う前に口から出ていて、素直に笑われた。


—手のひらの中—

A recollection with you

カフェ“ポエム” since 2010.11.27

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