手のひらの中
雨が嫌いだ
締め切った部屋は
放送室の防音室みたいに
音も気配も
あるいは時間さえ
僕の世界から切り離していく
雨音が遠くに滲む
もう春は終わるよって
言われている気がした
そんなふうに取り戻せないものがたくさんあって
たったひとつを守れないことが
情けなくてみっともなくて、許せなかった
しゃがみ込んで、いくら自分を責めたところで
何が起きるわけでもない
長く使ってきた鞄の留め金は、とっくに壊れている
それでも捨てずにきたのは
なかったことにはしたくないからだ
僕の手のひらに、未だそれくらいの優しさはあると
信じていたいからだ
不意に扉をノックされる
書くことに、集中し過ぎていたみたいだ
今夜のお菓子は、なんだろうか
思う前に口から出ていて、素直に笑われた。
—手のひらの中—
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