door

夜、自室の鍵を閉めるには、すこしだけ勇気がいる

世界と一瞬でも離れてしまうことが怖い


明日もしも起きられなかったとして

何かの拍子に、世界が僕を消し去ってしまったとして

誰にも、二度と見つけてもらえなかったら

そんな孤独に何度囚われたか分からない


そうして朝が来るたび、かさぶたにならないままの傷を

白い包帯と綺麗な洋服で隠して

今日も、まともな人間のふりをする


ああ、生きてしまった


望まれて生まれたわけではないと教えられた

性別も容姿も、好きなことも生きかたも

僕が僕を嫌いになるには、十分な理由だった


この手が何度空を切っても、仕方がないと諦めた

すり減らせるものさえ失った


感慨に耽って、いくらか時間が過ぎたころ

敢えて閉めずにいたドアが、僕の返事を待たずに開いた

遠慮がちな挨拶に、書く手を止める


誰にも気づかれないように

出来る限り手を伸ばす


恥ずかしそうに握り返してくる君が愛しくて

抱き締めずにはいられなかった。


—door—

A recollection with you

カフェ“ポエム” since 2010.11.27

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