door
夜、自室の鍵を閉めるには、すこしだけ勇気がいる
世界と一瞬でも離れてしまうことが怖い
明日もしも起きられなかったとして
何かの拍子に、世界が僕を消し去ってしまったとして
誰にも、二度と見つけてもらえなかったら
そんな孤独に何度囚われたか分からない
そうして朝が来るたび、かさぶたにならないままの傷を
白い包帯と綺麗な洋服で隠して
今日も、まともな人間のふりをする
ああ、生きてしまった
望まれて生まれたわけではないと教えられた
性別も容姿も、好きなことも生きかたも
僕が僕を嫌いになるには、十分な理由だった
この手が何度空を切っても、仕方がないと諦めた
すり減らせるものさえ失った
感慨に耽って、いくらか時間が過ぎたころ
敢えて閉めずにいたドアが、僕の返事を待たずに開いた
遠慮がちな挨拶に、書く手を止める
誰にも気づかれないように
出来る限り手を伸ばす
恥ずかしそうに握り返してくる君が愛しくて
抱き締めずにはいられなかった。
—door—
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