少しずつ、雨編

「祐月さんって、本当に苦手ですよね」
「それはなあ。強くはなれないって」
「雨でも、ちゃんとしてください~」
「ううむ…」

あたしが出会ったときからずっとそうだけど、祐月さんは雨が苦手な人。湿気がダメだって言うけど、誰だって大変だよ。
髪の毛整えたり、調子崩さないようにしたり。本当のところをいつか聴きたい。

カランカラン

「いらっしゃいませ♪
 お好きな席にどうぞ」
『何にしようかなあ。
 桜のチーズケーキをひとつ。あとブレンドで』
「かしこまりました♪」

コーヒーは祐月さんが淹れて、ケーキはあたしの役目。果物を盛りつけて、飾りつけに桜の形の砂糖菓子添えた。

「お待たせしました、ブレンドと桜のチーズケーキです。
 お花は砂糖菓子なので、召し上がれます。ごゆっくりしてくださいね」

そう言うと、女の人は、あたしに軽く会釈をした。カウンターに戻る。

「あの女の人、雨が降る日に来るんだ。席は決まって奥のテーブル席」
「待ち合わせ、でもないんですよね?」
「うん。いつもひとりで」
「…あれ?」

カランカラン

「いらっしゃいませ♪」
「いらっしゃい」
〈えっと、待ち合わせで…。あ、あの奥の〉
「分かりました、どうぞ~」

珍しく待ち合わせだったみたい。
でも、少し雰囲気が違うような。

〈綾音、久しぶり〉
『うん、久しぶり』
〈元気だった?〉
『うん、私は。掛(かける)は?』
〈俺も元気でやってたよ。寂しかったけどね〉
『そんなのウソ』
〈嘘じゃないよ。綾音、俺、帰ってくることになった〉
『えっ…?またウソ』
〈ホントだって〉
『…そっか』
〈?〉
『…そっか。おかえり』
〈…うん、ただいま〉

あやねさん、は泣いていた。
きっと、たくさん我慢してたんだろうな。雨に流さなくて良かったな。ちゃんと泣けて良かったな。そう思った。

そうしてふと、祐月さんって、泣くのかな。見たことないなって、気づいた。

A recollection with you

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