いえのこと
風邪が長引いて、すっかりポンコツと化した僕に
君は何も言わなかった
弁当も3日休んで、掃除も洗濯も出来たり出来なかったりで
それでも、君は何も言わなかった
3回も行った掛かりつけには見捨てられた挙句
他の病院を案内さえしてくれなくて
すっかりご立腹のところに
休みだからと普通に出掛けて行く君にすら当たってしまった
情けないこと、この上ない
そうは言っても、咳き込む辛さに耐えきれなくて
別の病院を探して行って、どうにか事なきを得たけど
今度は、なかなか帰って来ない君に苛々していた
風邪で寝込んでいる僕を置いて行ったからじゃない
そういう意味では、そもそも期待していない
帰ったらやると宣言した家事を
帰りが遅くなったから、やっぱりやらない
そう言われてしまうのが目に見えた気がしたからだった
当然のように終電で帰ってきた君に
僕は小言を零さずにはいられなかった
「帰るって、言おうと思ったんです。
でも、言えなかったんです」
「君は、家のこととそれ以外を天秤に掛けたんだね」
「早く帰るなんて、私には無理です」
僕がポンコツなときくらい、助けて欲しいと言うのは
そんなに負担なんだろうか
仕事のためならまだしも、君の自由のためにまで
そこまでやらないといけないんだろうか
頑張っても報われない自分を哀れんだ
いまくらい、ただ優しくして欲しかった
「悪い子なら、叱ってください」
叱る気力は、なかった
それくらい、気力も体力もなかった
僕は先に眠った
君は眠る前に、洗濯して干してくれた
おまけに2回目の洗濯は、乾燥機も掛けてくれていた
出来ない、やらないと
決めつけていたのも
甘やかしていたのも、僕だった
毎日家のことをやる僕に「ありがとう」を言う君に
今度は、僕から「ありがとう」という日が
こんなに早く来るとは思わなかった。
— いえのこと —
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