朝ごはんは、一緒が良い
朝、眠っている君をそっと置いて、お弁当を作る
作るのが一段落したら、君を起こしに行く
いつ起こしてもギリギリの時間を攻める君を
どうしたらいいか毎日のように考えている
まるで、最適解を見つける数学者みたいな気分だ
冗談を言う暇もなく
急ピッチで朝ごはんの支度をする
サラダを盛り付けた君が
呑気にオレンジジュースを飲んでいるのを横目に
半熟になった目玉焼きを皿まで運んで
面倒な洗いものを先に済ませて
ようやく僕は、食卓に辿り着ける
本当は、コーヒーを淹れたいけれど
そこまで、優雅に過ごす余裕はないから
止むなく紅茶にしている節はある
でも、君がいなければ
ここまで紅茶に入れ込むことも
なかっただろうなあと思った
口を開かなければ
こんなことばかり僕の頭を巡っている
「来月から朝ごはん、一緒に食べられなくなるね」
君は、すごく悲しそうな顔をする
仕事なんだから仕方ないって
大人は簡単に割り切るしかない
朝ごはんを食べるためだけに
早起きしてもらうわけにもいかない
君との朝ごはんが週末だけになるのは
僕だって、すごく悲しい
その上、家の中で会話が減ることに
僕がどれだけ不安を煽られているか
「冷食生活に戻る?」
「いや。頑張ってハッシュドポテトと目玉焼きつくります。
タイミングが違っても、貴方と同じものが食べたいです」
尊(とうと)い…!
使い古されたかもしれない推しへの愛言葉を
どうにか心に押し留める
大人にならないといけない大人の世界で
幼気(いたいけ)な少女の顔をして
そんなことを言うんだから
“尊い”以外に当てはまる言葉は多分見つからない
バタバタと元気に廊下を走り回る君を横目に
僕は洗いものと片付けをする
君が玄関に立つのは音で分かるから
それに合わせて、僕も玄関に向かって弁当を持たせる
「行ってきます!」
電車に間に合うように、駆け出しながら
何度もこちらを振り返って前を向いたと思ったら
急に鞄を確認し始めて
「あっ、あれ忘れた…!
あっ、入れてた…!」
独り言までしっかり聞いてから玄関を閉めた。
—朝ごはんは、一緒が良い—
0コメント