澪標 君にとっての僕のこと

「君にとって、僕は何?」


これまで何度か聴いてきた

この台詞は

君との現在地を確かめるものだ

決して面倒臭い人間を演じたいわけじゃない


いつもと同じ帰り道のこと

「今夜は久々に触れたいです」

「そんなに久しぶりだっけ?」

口にしながら、ふっと周りを見渡してしまう

そんな必要は、きっとない

ありふれた営みを恥ずかしいことだって

隠さないといけない方がおかしい


その直後の言葉に

僕は思考をフリーズすることになった


「貴方が欠かせない存在になってしまいました」


大きく目が開(ひら)くのが自分でも分かった

とりあえずキスしようとして

「帰ったらね」

狡い目をして、優しく窘(たしな)められる

「家族にだって、そんなこと言われたことないよ」

「え?なんのことですか?」

聞き間違いかと思ったけど、そうではなかった

手前の話を引きずっていたらしい

「それは、さすがに家族に言われたくないな」

笑い出した僕を

「そうですね」と一緒に笑う


外では、という意味と

親には、という意味を兼ねているから

ここで言う“家族”は

僕らふたりのことではない


「私が壊れそうになったら、ちゃんと守ってください」

「うん。そうならないように努力するよ」


君が僕に何をしても、怒りも叱りもしない

好きだから目を瞑ってるわけでも

愛してるから許してるわけでもない

ただ僕らは、“ふたり家族”として

守らなければならないものを守っていたいだけだ


「貴方って、本当に私のこと好きですね」

「ああ、そうだよ」

すこし拗ねたように言ってみる

「すごく好きだよ。愛してる。

 君だって僕のこと好きだろ?」


柄にもなく強めに言って

もう一度だけ周りを見てキスをした。


—澪標 君にとっての僕のこと—


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