You are my savior. file.2

ニュースで流れてしまうくらいの事故だったけれど

誰にも怪我はなかったらしい

不幸中の幸い

なんて失礼な物言いだろう

不幸なんて、起きて欲しくない

たまったもんじゃない


乗るはずだった終電に乗れなくなって

途方に暮れるどころか、魔が差した


渋谷で、朝まで遊んでしまえ


深夜、徘徊するタクシーは何台もいる

回送1台に無視されて、ちょっと苛立った

次の1台がドアを開けてくれた

「さっきのひどいですね〜」

直後、気負わない運転手のお陰で

さっきの気分は楽になった


走り出した車内で最初に思ったのは、

この運転手、やけに若いなということだった

話を聞けばそれもそのはず

僕らふたりよりも若かったのだ

それなのに気遣いまでできるなんて

タクシードライバーの鑑だと讃えたい気持ちだった

こういう人がいてくれるお陰で

生きてて良かったなんてことを、うっかり思える


深夜なんて言葉を知らないほど

渋谷の街は、どこも明るい


山手線でさえ、もうすぐ休むのに

そんなことは知ったことかと、街を練り歩いた

隣に愛おしい酔っ払いを連れて

僕はとても気分が良い

呑み足りないと言われて入った呑み屋で

自然すぎる動きで、僕の膝の上に来たかと思ったら

あろうことか寝息を立て出した


何年前だったか

いまはもうない神楽坂のカフェで

コーヒーを飲んでいるあいだ

ずっと、僕のあぐらの上にいた看板猫を思い出した


初電までしか営業していないお店で内心焦って

というか周りの目を若干気になりながらも

時々起きる君に水を飲ませたり、お手洗いに行かせたり

そうしてどうにか乗りきった、はずだった


君は仕事だし、僕も行くところがある

でも、乗りたい路線はテコでも動く気配がない

朝ごはんは食べようと話して

昨日の自分たちを労るように、お腹に優しそうな蕎麦を食べた


振替輸送で、何とか家に帰れたけど

お風呂に入って支度をしたら手一杯くらいの時間しかない

家の中を駆け回って

何とか全部の帳尻を合わせる


君の仕事にも、僕の用事にも

どうにか間に合った


結局、電車はその日中まともに動かないまま

君が帰ってきた頃にやっと平穏を取り戻した。


— You are my savior. file.2 —



A recollection with you

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