You are not alone

終わり良ければ全て良しなんて、そんなわけはない

それまでの過程に、どれだけの感情があったか

全部無視されてしまってる気がして


家を出てからの体調を気遣ったら

それは大丈夫だったけれど

そうではない部分で、辛くなってしまったらしい

行き掛けに僕が余計なことを

言ってしまったからだと反省する


でも、それではなかった


上手く言葉が出なくて苦しかったんだと言う

仕事でも言葉を使う君には

相当にこたえてしまっただろうと想像する

いますぐ駆けつけてやりたい気持ちを堪えて

目の前の画面に文字を打ち込んだ


《言葉が出なくても伝えようって

 相手のこと、大切にしてる証だよ

 君はやっぱり、すごいね》


ありがとう、とプレーンテキストだけが返ってくる


君は自分に優しくするのが苦手だろうから

迎えに行って、甘いものでも買って帰って

できるだけ話をして、ひと息ついてもらおう


そう思っていた


帰ってきた君は、僕を見つけると

いつもささやかに手を振りながら

「ただいま」と言う

その手はあまりにささやかで、かわいい


コンビニで、新作スイーツを買う

甘いものは、しばらく食べていなかったらしい

終バスの行った停留所で食べていると

昨日の君が降り過ごして

乗る羽目になった電車も通過して行った


いろんな話をする中で、

「今日の私は、仕事の顔じゃない素の私でした

 だからすごく満足してます」

仕事の一幕だったけれど、すごく印象的だった


でも、これが次の引き金になってしまうことに

僕は気づけなかった


「何もしたくない」


手を引いても、立ち止まる

「誰かの人生を左右してしまうことに、関わりたくないんです」

そう言って、君は唐突に泣き出した

「じゃあ、休むかい?」

そう聴くと、君は、何もしたくないと繰り返し言う

「君はいまの場所に求められてて、ちゃんと頑張ってるじゃん。

 今日だって、君の言葉で、相手は救われてたと思うよ?

 それは、仕事として割り切ってる人にはできないことだよ」


この話は、帰宅してからも続くことになった

部屋で、さっきの話の続きをする


「何もしたくないって、

 君はやっぱりいなくなりたいの?」


酷いことを言っている自覚はしている

ただ、君が頷くという確信があった

案の定だったから、僕は続ける

「いつ死ぬかなんてわからないけど、

 君がいなくなるなら、僕が先にいなくなるよ」

そう言うと、君は顔を上げてこちらを見た

「それは、いやです」

それだけは、はっきり言った

僕の太腿は、ほんのり濡れている


相手の話に誠実に向きあおうとして

自分の過去を話したときに、自分らしく話せたのに

思い出したそのことがとても辛かった


そう涙と一緒に零した


それからのことが、はっきり思い出せない

君を安心させたくて、ありったけ言葉を掛けた

僕は、ちゃんとできただろうか


そのまま寝始めた君に、好きな歌をいくつかアカペラした

泣き腫らした夜が、君に意地悪をしないように願いながら


泣いた次の朝は、大抵、自分の目が腫れぼったくないか

相当気にしている

たまに二重(ふたえ)が四重(よつえ)になってるけど

そんなことは、なかった

あっても迷わず、まっすぐ言ってやる

かわいいよ、って、微笑みながら

「私って、かわいいですよね」

なんて笑いながらかましてくるから、僕はすっかり安心する


今日も、そそくさと家を出る

電車の時間が迫っているのに

駅までの道すがら

君はいつも通り、唐突に僕を撃沈する


「貴方のお陰で、泣いたあともすっきりしてます。

 ひとりじゃなくてよかった」

僕はひとつ微笑んでから

「ひとりにはしないよ」と言った


そう、何度も伝えてきて良かった。


— You are not alone —

A recollection with you

カフェ“ポエム” since 2010.11.27

0コメント

  • 1000 / 1000