サーモンのムニエル
いつもの僕らは、それぞれにご飯を用意して
同じ食卓で食べているけれど
今朝は君がサーモンのムニエルを焼いてくれると言うので
楽しみにしながら、お日さまの光をふたりで浴びる
いつもより早く起きたはずなのに
やっぱり朝の僕らは忙しなかった
昨日買ったサーモンに“粉”をまぶして
皮面から三分丁寧に焼いていく
焦げてしまったのを見て不安そうにしていたけど
きっと大丈夫だろう
身の面にひっくり返してもう三分焼く
放っておけば良いのかと思ったら
“様子を見ながら”と書いてあったらしい
楽なはずの“粉”なのに
ちょっと優しくないぞと笑ってしまった
昨日つくったビーフストロガノフを僕が
昨日買ったサラダを君がよそう
サラダの隣には、大きなサーモンのムニエルが乗っていた
食卓をようやく囲んで、時間に気を取られそうになったところで、
僕は、昨日気付けなかったもうひとつの「幸せ」に気付いた
「そういえば、同じ朝ごはんを食べるの初めてだね」
「そうですね」
と言って、君が笑う
昨日のは、もちろん美味しかったけど
今日のムニエルは
皮のパリパリ感も、身のホクホク加減も最高だった
控えなくても美味しかった
えっへんと、言いたそうな顔だった
「頑張らないといけないって思うとしんどいけど
こうやってご飯食べるためとかって
一人では得られない喜びですよ」
「良いこと言うねえ」
出掛ける時間に追い立てられそうになって
洗いものは僕が引き受ける
君に出来ることまで奪うつもりはない
けれど、出来ないときは任せてくれたらいい
甘えるのと頼るのは紙一重だから
間違いさえしなければそれでいい
僕らは、ちゃんとふたりだから
間違いようもないけれど。
—サーモンのムニエル—
0コメント