寝顔まで
窓に雫が垂れるくらいの雨が降っていた
そのせいというよりは、何となく必要な気がして、
迎えに行くか聴いてみる
必要だとか、来てとか
てっきり、そんな返事だろうと思っていたけれど
僕の想像なんか軽く超えていた
あれは、ずるい。
ついでに、雨の前、とてつもない気怠さの理由が
低気圧のせいだけじゃなかったことが分かったから
猛スピードで夜ご飯を済ませて支度する
食べることは、僕にとってそれほど重要ではなかったけど
この頃、ちゃんとお腹は減るようになったし
何より朝晩二食になれたのは、良い兆しのはずだ
タイミングを見計らって外に出る
水溜まりは、まだなかった
駅に向かう途中で、メッセージを受け取る
意地悪をしたくなって、大袈裟に嘘をつく
さすがに気づくと思ったけど
しまった、ふたりとも冗談が通じない
本当は、駅まで半分のところでした
しょうもないこと言いました
ゴメンナサイ
改札を出てくる君はだいたい
疲れなんてどこへやらと、僕に笑いかけてくる
傘が別々なのは、未だちょっとだけジレンマ
けれど、僕の大きな傘は君の小さい傘をすっぽり覆ってしまうから
君が濡れてしまう心配はない
重なった傘の隙間、僕の左腕にそっと触れてくる
愛しさのあまり、いまにも決壊しそうな精神を
寸でのところで耐えて、よしよしと頭を撫でる
くしゅっと笑う君の顔に、好きが溢れ返ってしまう
「こんなに甘えてていいのかな」
って、呟くから
「ダメならダメって言うよ」
と答えておく
近くにいても、遠くにいても
こんなふうに、君を守っていたい
いまできるすべてで、君を愛していると伝えたい
未来は、もっとすごいことになってる
僕の膝の上は、お気に入りらしい
すんなり頭を置いて、今日の話をする
日常を垣間見れるのは嬉しいし
周りのひとに愛されているのが分かるから
もっと嬉しくなる
早めに居住まいを直して布団を掛ける
「寝かしつけてください…」
と丁寧に甘えられて、何だか可笑しかったけれど
こどもにするように、優しく応える
たまに、キスをするのが大人らしい
すこしずつ微睡んで、寝惚けていく
一晩ぶりの君は、いつにも増して安心しているように見えた
呼吸が深くなるのを聞き届けて、僕も眠りについた。
—寝顔まで—
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