名前のない物語
いつか君に見せたかったものは
いま果たして跡形もなく消えてしまっていて
二度と同じ物語は書けないと思い知ったんだ
それから
色を
温度を
声を
記憶を
ひとつずつ
そうして、全てを喪った
僕の手は動かすことすら、ろくに出来なくなった
何もかも怖くなった
僕は弱い
ひどく弱いから
言葉にしなければ
残すことをやめてしまえば
声にすることを怖れなければ
意味なんて持たせなければ
分からず屋だと離してしまえば
吸った息がひとつだったら
例え、その手が重なったことでさえ
何もかも、全てフィクションにしてしまえたら
つまらないね、なんて言って、2人で笑えたかもしれない
けどさ、これは。
針ひとつ止められずに、ひとつずつ大切にしてしまった
名前のない物語。
ー名前のない物語ー
at Kagoshima
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