路地裏の猫
私は元々飼い猫だった。
主は大変な旅好きで、毎日、私を連れ出してくれた。偶に面倒なときもあったが、出てみればやはり、楽しかった。
ある日、何故、必ず私を連れて行くのかと聴いたとき、主はこう答えた。
広い世界を一緒に見て欲しい。と。
旅先で、私を可愛いだの何だのと言う客に、主はいつも是と返した。心地よかったのは初めだけで、次第に嫌になっていった。言われるほど、容姿に自信はなかった。
満月に差し掛かったある夜、私はこっそり家を抜け出して、路地裏の猫になった。
たぶん私は、不特定な誰かに自分を評価されることが怖かったんだろうと思う。光に当たるつもりもないのに、無理矢理当てられてしまうのが苦痛だったんだと思う。臆病者になってしまった私に気付いて、なんて、伝える手段はなかった。
こんな私でも、愛されていいんだろうか。
不安は募るばかりで、消えてくれなかった。
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