晴れに願う

帰ってくるなり理由(わけ)も言わずに

嫌だ嫌だと、とめどなく泣き叫ぶ君を

ひとつずつ紐解いていく

それくらいしかできなかった


言葉に溺れては息をして

息をしては言葉に溺れて

何度となく繰り返した先で

堂々巡りになる前に

すこしずつ答えを求めていく


物語を書くのと同じような気がした

いや、そうしたかったんだとさえ思った


僕が書く物語は、嫌でも君を救う物語でありたいから


「やりたいことやって生きたいです」

「そうだね。僕も、そう思って生きてる」


君が舞台女優で、僕は旅の仕事をして

美味しいお酒で、大人の夜更かしをして

明日が曇りでも雨でも

もう何も関係ない

自分の生き方に妥協しなかったんだから

僕らは、絶対格好いい


純粋に、その未来が見てみたい

ふたりだから大丈夫

君に支えてもらったぶん

倍以上にして、ちゃんと僕が支えるよ


次の朝、ふと目を覚ますと

君は眼鏡を掛けて仕事をしていた

その姿は凛々しい

「なんかかっこいいね」

「そうですか?」

これが普通ですよと言うように

パソコンと向き合っている

「これ、どういう資料なの?」

つい聴いてしまったけど、丁寧に説明してくれたから

ついアドバイスしてしまった

「素人目でも、分かりやすいし良いと思うよ」

「そうですか」


僕の基本方針は、いつだって“褒めて伸ばす”だ

褒められ慣れてない自分が言うのもなんだけど


「こんな上司どう?」

「良いと思います」

僕に背を向けたまま、君が言った

うざったくなかっただろうかと心配したけど

そんな風ではなかった、と思いたい


僕は先に部屋を出て、朝ごはんの支度をする

仕事を済ませた君が、バタバタし始めた

なんだか安心する、なんて言ったら怒られるかもしれない


朝ごはんを準備し終えたのと

君が食卓に着いたのは、同じタイミングだった

「ありがとうございます」

未だに敬語でお礼を言われるのは慣れない

「ほら、食べよう」

「はい。いただきます」

話すことが特になければ、BGMだけになる

気まずさは1ミリもない


ふたりで出る

駅まで、手を繋いで行く


さっきまで曇っていたのに

急に、陽が差してきた

「晴れましたね」

「きっと、君を応援してくれてるんだよ。

 晴れた日は、そう思うようにしてる」


改札で見送るとき

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

手を振りあって

「よく頑張ったね!」

周りの誰が聞いても意味のないセリフを大きな声で飛ばす

恥ずかしそうに手を振り返して

ホームへのエスカレーターの先に消えていく


僕も、早く改札の向こう側に行きたいと思った。


— 晴れに願う —

A recollection with you

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