見え透いていたこと 編
いつも、この店の中心は夜のことだ。
だから、天窓から見えるのは月や星。あるいは、真っ暗な空。当たり前だけど。
そう。この天窓は1日が経つことを教えてくれる意味でも役に立っている。
「うん?もう12時回ってたのか」
「そうですよ~」
「いや、夜に本読んでるとつい…」
「このままじゃ虫になっちゃいますよ?」
「いくら夜行性でもそうまではならないさ」
「へーえ」
と言いながら、詩歩はニヤけ顔でこちらを見てくる。というか、少しバカにしてやいないか…?
「僕に合わせて起きてたら、また眠れなくなるよ」
「あたしももう大人ですから。これくらいへっちゃらですー」
むすっとした顔で言う。そう言えば、そろそろ来る頃だ。
カランカラン
『こんばんは。遅い時間にごめんねー』
「いえいえ。どうぞ」
と言うと、彼女は僕が立つ斜め向かいの席に座った。夜遅い時間に来るとき、オーダーは決まってココアなので、淹れるのは詩歩に任せることにした。
『いつものって言わなくても、もう分かっちゃうんだ』
「お客さんの好みを知っておくのは、大事なことですからね」
『ふーん』
頷いたような風だ。
「そういえば、何か話したいことがあるんじゃなかったっけ」
『それもバレちゃってるのかあ~』
「いや。隠す気も、なかったでしょう…」
『もちろん!』
「ううむ…。それで話って何だい?」
『あー…彼氏』
と言いかけた瞬間、僕は察した。
「出来たんですかっ!!??」
詩歩なら食いつくと思ってたよ…。
先に寝かせるのに失敗したから許して、と目線を送る。もちろん気づいてもらえない。
『う、うん。そうなんだけどね。先週、クリスマスだったのに、会ってくれなかったんだー』
詩歩がそれに返そうとしたが、彼女は手で制止する。
『分かってるんだよ?彼、忙しいから』
「そう言われたら、なにも言えないですよ…」
『あはは。聴いて欲しいだけだから、良いんだー』
軽快に言っているようで、本当のところは落ち込んでいる。聴くだけで良いなら、そもそも話したいとは言わないはずだ。
『わたし、求めすぎてるのかなあ?』
「うーん、その辺りは彼と話さないと分からないところだけど。一緒に居たいと思うのは当然だし、それだけで求めすぎてるとは言い難いかな」
『もう少し様子を見てみた方が良いってことと?』
「うん。ついひとつのことで判断してしまいがちだからね」
『…ちょっと馬鹿にしてる』
「いや、至って真面目だよ」
少しの間目が合って、堪えきれず笑った。
『じゃあ、もう一杯ちょうだい』
いたずらっぽく彼女が言うので、分かりましたと答える。そして、詩歩に耳打ちする。
「詩歩。話持っていってごめんな」
「ううん。あたしまだ、知らなかったから」
「大丈夫。これから知れば良い」
詩歩の肩をとんと、軽く叩いてから、僕は2杯目のココアを淹れるのに取り掛かった。
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