てづくりピザの唄

僕にとっての君と

君にとっての僕と

違うのは当然だから

言ってしまうことが常に正しいわけでは

ないんだと思う


ふたりで映画を観に行くつもりで

だらだら過ごしてしまった挙句

バスも映画も予定通り行かなくなって、不機嫌になった僕は

喧嘩になると分かっていながら、小言を零してしまった

「本当は、出掛けなくてもいいかなって

 思ってたんですけど、

 貴方となら観てもいいかなって」

「いつも時間守ってくれないし、その程度だったの」

「どうせ私は、自分のことばっかりです」

折角の休日が台無しだと、僕以上に不機嫌になる

諦めるのが正しいのか、言い続けるのが正しいのか

未だ正解が分からない


行くのか行かないのかについては、

結局、1本後のバスで、1本後の映画を見ることになった


ご飯さえ食べていなかったから

何を食べるか悩んだ末

サイゼリヤに駆け込んでソース違いのドリアを頼んだ

きっともっと高価なものの方が満足できるけれど

いまの僕じゃ叶えてあげられない

1皿400円でも美味しいを共有できるのは

やっぱり、君に救われていることには違いなかった


劇場には、5分遅れて入った


ネットで、1席だけ埋まっていると表示されていたのに

実際には、誰ひとり座っていない

その瞬間、無機質な電子チケットが

神様からのプレゼントになった気がした


君が腕を絡めてきたり、手をにぎにぎしたりする

頭を撫でてみるけど、目線はスクリーンのままだ


劇場内が、すこし肌寒かったらしい

着て来た上着を君に着せる

「ありがと。貴方は寒くない?」

「うん」

僕が温かいのは君のせいだ、とは言えない

「大丈夫だよ」

こうして労りあっても、同じタイミングで笑いあっても

いまこの場所では、誰も僕らを責めない


何がどう創られても、守りたいものを守りきった

物語の中で、そう語る主人公は、なんかちょっとカッコよかった


今夜は、ピザを生地から作ることにしていた


具材を買うためにスーパーに飛び込む

劇場を出てから、呑気にスタバで新作を飲んでいたせいだ

閉店時間まで、あと15分

学校の廊下を駆け回るような罪悪感と

下校のチャイムに追い立てられる焦燥感は、青春みたいだった


バスには余裕で間に合った

ゆっくり帰宅する


本番は、ここからだ


捏ねて乗せて焼くだけとは言え

生地からつくるのは、さすがに初めてだ

料理に不慣れな君が、あまつさえ飽きないように

テキパキ指示を出しながら

ソースをつくって、オーブンを予熱する


生地を捏ねている君が、訝しげにそれを見ていた

「大丈夫だよ、ちゃんと形になるから」

「手がベトベト…」

粘土のように纏わりついている

「ちょっと飽きた?」

「はい…」

「じゃあ、そろそろ代わるよ」

バトンタッチして、今度はカプレーゼをつくってもらう

トマトを切る手は、相変わらず危なっかしいけど頑張っていた


纏まった生地は、ふっくらしていてかわいい

君の頬っぺたみたいだった気がする


ふたつに分けてもらう


明太シラスピザと照り焼きチキンポテマカピザ

2枚を焼いている間に

サーモンとマグロのカルパッチョを用意して

カプレーゼと一緒にテーブルに並べておく

ピザが揃ったところで

グラスにお酒を注いで乾杯した


あえて小さいグラスにしているのは、呑み過ぎ防止のためだ

それでも次から次に呑み進める君を気に掛けて

用意していた水のボトルをそっと差し出しておく


素直に飲むから、そこがまたかわいい


しっかり食べて

ゆっくり呑んで

洗いものをして


余韻で、眠った。


— てづくりピザの唄 —

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