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長かった夏季が終わった最初の休み
君には友達と出かける予定がある
昨晩、ビール缶2杯で眠気が来て
なんともコスパの良い晩酌だったけど
お風呂を次の日に回してしまったぶん
ふたりで朝ごはんを食べるには、早起きする必要があった
起きるわけないよなあと思いながら
セットしたアラームは
何度も鳴っては僕が止めるだけだった
出掛けるギリギリになって
やっと君は目を覚ました
起きないといけないと理解しているものの
僕の膝に頭を預けて延長戦をする
どうやら、眠いだけではないらしい
髪にそっと指を通していると
「ベタついてますよね…」
「別に、全然気にならないよ」
スタイリング剤が気になったらしい
そもそもベタつくものを使ってないんだから
本当に気にしなくていい
ごそごそと、膝の上で僕に向き直った
優しい瞳で、見上げられる
「私、大事にされてますね」
「うん」
眠くて上手く返事が出来ない
“当たり前じゃん”
“そりゃ、大事にしてるからね”
“そんなことより起きなくていいの?”
頭の中では色々出てくるのに
逡巡したふうになって、口に出ないことが
地味にもどかしかった
普段は僕の方がクサイことを言っているんだから
たまには、逆になったっていいよなあ
随分長く僕の膝を堪能してから
ようやく起き上がったところで
今度は、僕が君の膝を借りる
「まだ居たい」
「また夜ね」
ほんのわずかな抵抗は
いつも大人ではいられないことの
表明のつもりだった
朝ごはんは、案の定一緒に食べられないまま
君は慌ただしく出掛けて行った
直後、雨音がした
狐雨だった
「雨だ…」
嘆くようなメッセージが来たあとで
「夜は帰れると思うから、ご飯楽しみにしてます」
「わかった。楽しみにしててね」
昨日のうちに、良いお肉を買っておいた
今夜のごはんは、肉じゃがカレーだ
僕も用事を済ませて、早く帰ろうと思った。
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