hungover
例の水道騒ぎは、夜遅くまで掛かって
次の日に持ち越すかもしれない
なんて恐ろしい連絡がきたもののどうにか直った
夜まで銭湯は勘弁してくれと切に願ったからだろう
晩酌はコンビニで買ったビールで始まった
こんなに日々呑むことは、なかなかなかったから
新鮮だと思いつつ
君のことを気に掛けずにはいられなかった
帰宅して、グラスを用意する
空きっ腹にはまずいと思って、食べものをお願いすると
堅上げポテトと冷凍シュウマイがやってきた
斬新な組み合わせだけど、塩気が欲しかったので良しとする
テレビを前に、一人じゃなかなか見ないからと
お笑いを見ることになる
普段見ないし、最近の芸人は分からないし
そもそも笑えるのかと思い悩んでいたけど
これが頭を適度に使う良いネタだった
500mlのビール2缶は、今夜もあっという間に消えて
追加を取ってくるように頼まれた
純米吟醸 “大星夜”
我が家に1本しかない日本酒で、
君が北陸旅行に行ったときのお土産だ
「何かで割る?」
「いえ、そのままいきます」
いつもなら炭酸か氷を入れそうなのに、そう返された
シュウマイだけでは足りそうになくて、常備菜もテーブルに並べる
「すごく飲みやすいんですよ」
自然と始まった第2ラウンドで、君が自慢げに言う
とても美味しかったし、飲みやすかった
いや、呑みやす過ぎた
君がコップを空けた側から継ぎ足すのを見て
僕はこっそりお酒を呑むペースを落とす
すっかり酔った君がどうなるかは知っている
知っていたけど、まさかだった
「ふたりだけだから、いいでしょう?」
そもそも誰に見られるわけでもないのに
そう言って、何度もキスを交わす
悪い気は全くしない
むしろ積極的で、お酒より酔えそうだった
気づけば瓶の中身は、残り半分を切っていた
深夜2時を回ったころ、君がついに潰れた
先に僕の部屋に行きたいと言うので
ついでに布団に押し込む
すると今度は吐き気がすると言い出した
紙袋にポリ袋をセットしておく
コップもお酒もひとりで片付けて部屋に戻ると
さっきのキスが再来した
あんまり可愛く甘えてくるから、すべて許してしまう
そんな日があってもいい
たくさん呑んだおかげで、迷いなく眠れた
翌朝目を覚まして
「うう、身体は元気なんですが気持ち悪い…」
明白な二日酔いだった
それから続けて、
「ああ、醜態だ…」
どうせ僕しか見ていないし、僕の記憶の中にしかない
代わりに嗜めるように言った
「酔ってキス魔になるなら、呑みに行かせられないなあ」
「貴方にしかしませんよ、キスなんて」
僕は返す言葉を唐突に失った
朝ごはんも食べきれず、心配になって駅まで送った
それでも、心の準備だけしていたけれど
結局、出動することはなかった
心配しすぎだって、笑われそうだよなあ
独りごちたときには、もう夜だった。
— hungover —
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