You’ll be
いつもの、って
言葉がなくても、そうありたいって
すれ違わないための
ひとつの約束なんだと思う
ここしばらく、帰りが遅い電車だったから
今夜は早く帰ると聴いて嬉しくなる
「ちょっと飲酒したいです」
「うん、しよう」
すぐに返した
まだかなあと、たった10分が待ちきれない
靴入れが開く音と同時にダイニングを飛び出したはずなのに
ビールと日本酒を買った君は、自分の部屋に入るところだった
冷蔵庫に入れておくよ、と預かって
キッチンでコップやお皿を準備する
しばらくして、ダイニングにやってきたところで
ふたりきりの晩酌を始めた
ビールで乾杯をする
話しているのに、君の言葉が続かない
「なんか、酔えません」
「どうしたんだい?」
仕事で疲れているんだろうかと思った
「空っぽなんです。
昨日の花火だって、楽しかったのに」
過ぎたことを憐れむように言った
「忘れるわけじゃないよ。
それに、僕が書いて残してる」
「そうですね。
だけど、私も何か書きたいんです」
書けない苦しみを言葉にするのは、初めてではない
僕が君の詩を読むのも、初めてじゃない
その間にビールが空いて、バトンパスみたいに日本酒を開ける
「いま書いてるの、何か読ませてよ」
スマホから探し出して、メッセージに送られてきた
感想にならないように思ったことを口にする
「僕の言葉は、内面の傷を書くけれど、
君の言葉は、表面の傷を書くんだよね。
その生々しさは、僕には書けない」
照れくさそうにありがとう、って君が言った
以前のように、哀しいばかりではなかった
「小説を書くのは諦めて、
でも、詩に出会って良かったとは思ってるんです」
相槌を打って、続きを促す
「いま書きたいのは、諦めた方かもしれません」
「そうなんだ。君が書いたどんな言葉でも読みたいよ。
それくらいには、僕は、君の言葉が好きだよ」
ようやく日本酒が効いてきたらしい
もうすこしだけ、夜更かしをした。
—You’ll be—
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