salty & sweet
夜ごはんを考えあぐねていたら
すっかり君が帰ってくる時間になっていた
小腹も空いて、どうしようかと思っていたら
君もそうだと言うので、お願いする
スイーツにしようかって話が
駅に着いた頃には、たこ焼きとビールに代わっていて
君らしくて笑ってしまった
もうすぐ着きます
そんな声がした気がして玄関に向かうと
丁度よくドアが開く
昨日より疲れた顔をしていた
とりあえず袋を受け取って、コップとお皿を準備する
ダイニングに集まってから
電子レンジでたこ焼きを温めて、ビールを注(つ)いだ
いつものように語らう
君の仕事の話は、面白くて興味津々だ
大変だと言いながらも、やりがいがあるのを感じる
僕にはそれが、自分のことのように誇らしい
このやりとりが、出会ったころを彷彿とさせたらしい
「あのころみたいですね」と、君が言う
懐かしむほど前でもないだろうにと思う
ただ、そう思えるくらいには
僕らは前を向いて歩いている
だけど、初心は忘れたくないし
この時間を当たり前にもしたくなくて
「いつでも、僕と君だよ」と、僕が言うと
「そうですね」と、君は微笑んだ
「塩辛いもののあとは甘いものが食べたくなりますね」
そう言って、じゃがりこといちご味のワッフルを追加する
ついでに、キットカットまである
それから、お酒が足りないと言い出した君のために
ベイリーズを牛乳でビルドしたカクテルを手渡す
分かりやすく言えば、
アルコール入りのミルクたっぷりココアだろうか
だんだんと夜の時間にふやけていく
「やっぱり止めておけば良かったかな」と、聞くと
「こんな時間も必要です」と、至極当然の返事が来る
このとき僕が忘れていたのは、チェイサーの水だった
君がほろ酔うターンに入って
不意に記憶の鍵を開けることになった
それは、僕らが僕らになる前のこと
こんな風に語らったあと、それぞれに洗いものをしながら
僕はこんなことを言っていたらしい
「君と過ごす時間は楽しい」
常々思っているし口にもするから
いつからかなんて覚えていなくて、思い切り照れてしまう
君がそれになんと返したのか聴いてみたら
「私もです。
私の日々は貴方に支えられてます」
そう言われたことは、確かに覚えている
僕はあのセリフを惜しみなく言ったに違いないんだろう
いまとなっては、
ふたりの洗いものは、僕が洗って君が拭くことが多いけれど
あのころは、それぞれだった
ちゃんと頼って頼れてるなあと、感慨深くなる
まだ抱えている、僕の負目さえ除けば
「いまの僕は、社会の藻屑だよ」
そうボソリとこぼした僕に君は、
「怒りますよ!」
その目でも僕を叱った
「休むことは必要です」
「…だいぶ長く、休んだ気がするけど」
「いまは、何かを同時に色々やらないといけないわけじゃないから
焦らずにやったらいいんです」
そう聴いてから、僕も似たようなことを言ったなあと思う
君は必要な言葉を必要なときに、ここだ!って渡してくれる
やっぱり君は、すごいのだ
「こんな風に誰かに守られたことがないから…」
自分で続けた言葉が思い出せない
気付かれないように
右目の目尻を拭ったことは覚えているから
きっと感謝を伝えたんだろう
ありがとうじゃ、到底尽くせないくらい
君からはたくさんのものをもらっている
隣にいるのが君で、本当に良かった
ああ、そうだ、そう伝えたんだった。
—salty & sweet—
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